第78話「最後の旅立ち」
夜明け前。まだ薄暗いひとがまに、若者(マルタの店の後輩)がそっと足を踏み入れた。
「つぎっぴーさん……準備はできていますか?」
つぎっぴーは、防護布を三重に巻かれ、まるで『やさしく守られた宝物』のようだった。
つぼるんは、陶じいが残した古い『器運び木箱』を用意していた。
「この箱は、陶じいが旅によく使っていたもので、器を守るための知恵が詰まっている」
ゆのみんも布でふんわり覆った。
「つぎっぴー、あったかくね。寒いとヒビが広がりやすいから」
「ありがとう……なんか……行く前から泣きそう……」
◆1.別れではなく、『つながりの再構築』
若者は深呼吸し、つぎっぴーに向けて丁寧に言った。
「マルタさんが愛した大切なあなたを……必ず海まで連れていきます」
「うん……! マルタさんの残した光を、今度はぼくたちが灯すんだ……!」
ゆのみんとつぼるんはそっと寄り添った。
「つぎっぴー、行ってらっしゃい。その金線は、海の向こうでも光るよ」
「そして……必ず戻ってきて。君の旅の続きを聞かせてくれるのを、私たちはずっと待っている」
つぎっぴーの金線が、朝日を受けて強く光った。
「行ってきます……!ぼくの『最後の大海』へ――!」
◆2.門出の瞬間、名のない器が鳴いた
若者が木箱を抱え、ひとがまを出ようとしたその瞬間――
名のない器が、ひときわ大きく鳴った。
『コ……トン……!』
「……名のない器……見送ってくれてるんだ……」
「これは『旅立ちの音』だ。つぎっぴーの意志が、名のない器に届いた証」
「気をつけてね……。お茶と土の匂い、忘れないで」
つぎっぴーは、布越しにふるふると震えた。
「ありがとう……!ふたりがいてくれたから、ぼくはここまで生きてこれた!」
そして若者は木箱を抱え、朝靄の中へゆっくり歩き出した。
つぎっぴーの金線が、箱の隙間からひとすじ光となって、ひとがまの入り口に残った。
老いの旅立ちは静かだ。しかし、その光は誰よりまぶしい。
◆3.残された二人の胸に『未来の気配』が宿る
ゆのみんは湯気をひとつ吐いて静かに言った。
「……行っちゃったね」
つぼるんは深く、静かに頷いた。
「だが、ここからが始まりだ。つぎっぴーは『希望を渡す』」
「……なんか、胸がぽかぽかする」
「老いて芽生えた志は、人生でもっとも澄んだ灯りかもしれない」
ふたりが縁側に座ると、名のない器がそっと光った。
「きっといつか、三つの志はまた一つの場所に集まるだろう」
「うん……つぎっぴーが帰ってきたら、また三人でお茶しようね」
朝の光が、ひとがまをやさしく包み込んだ。
つぎっぴーの旅立ち。
それは、三人の第二の人生が本格的に始まる合図だった。