第8話「なぞなぞの森」
ある曇りの日、〈ひとがま〉の裏山の森から、やわらかな笛のような音が聞こえてきた。
「ねぇ、あの音、なに?」
ゆのみんが首をかしげる。
「風じゃない?」とつぎっぴー。
「いや……風というより、何かのことばみたいだ」
つぼるんが小さく呟いた。
三人は顔を見合わせ、ぽてぽてと森の中へ足を踏み入れた。
木々のあいだは薄暗く、土の匂いが濃い。
葉のすきまからこぼれる光が、まるで小さな窯の炎のように瞬いていた。
「ここ、少しこわいね」
ゆのみんが湯気を少し強くして、あたりを照らす。
「だいじょうぶ! ぼくが先に行くよ!」
つぎっぴーが勢いよく進むが、すぐに木の根に足をとられて転んだ。
「ほらほか……」ゆのみんが笑う。
「だって、はやく知りたかったんだもん!」
つぎっぴーが立ち上がると、奥から声がした。
――だれが、わたしを吹かせていると思う?
三人が同時に止まった。
風も、鳥の声も消えていた。
ただ、その声だけが、森の奥から響いていた。
「……だれ?」
つぼるんが尋ねる。
――わたしは、見えないけれど、あなたたちの『あいだ』にいる。
「『あいだ』?」
ゆのみんが首をかしげる。
つぼるんは目を閉じて、静かに聞いた。
「あなたは……風?」
――風でもあり、言葉でもあり、火をつなぐ『間』でもある。
その声はふっと消え、森に静けさが戻った。
ゆのみんが言う。
「ねぇ……なんだったんだろう、あれ」
つぎっぴーは肩をすくめた。
「なぞなぞみたいだったね。答え、わかった?」
つぼるんはゆっくりと答えた。
「ううん、わからない。でも、わからないって、すごくおもしろい」
その言葉に、ゆのみんは笑って湯気を広げた。
つぎっぴーは「じゃあ、答え探しの冒険だね!」と跳ねた。
三人が森を出るころ、木々の上に夕陽が射しこんだ。
光が湯気の粒を金色に染めていた。
「ねぇ、また来ようよ」
「うん、なぞなぞの続きを聞きたい」
森の奥で、かすかに風が返事をしたような気がした。
――「答えを求めすぎて焦ればヒビが入る」
「……今の、聞こえた?」
三人が顔を見合わせる。
ゆのみんの湯気が震え、つぎっぴーの金の線が、ほんの少し光った。
それは、森の声が残した『謎』だった。
のちに彼らが幾度も立ち返る『問い』だった。
すべての旅の原点が、この日、静かに息を吹き始めた。