第13話「火の背中」
夕暮れの〈ひとがま〉の裏山は、昼間の熱をわずかに残して、ほのかにあたたかかった。
つぎっぴーは、その坂を全力で駆け下りていた。
「見ててねー! 今日こそ転ばないから!」
ゆのみんが慌てる。
「ちょっと速すぎるよー!」
つぼるんは腕を組んで、険しい顔をしていた。
「……なんであんなに無茶をするんだろう」
ズザッ!
つぎっぴーはまた大きく転んだ。
金継ぎの線が、夕陽を受けて鈍く光る。
「痛っ……でも、大丈夫! ぼく、転んだ回数だけ強くなるんだよ!」
陽気に言いながら立ち上がろうとする。
だが、その言葉がつぼるんの中の『何か』を刺した。
「強く……? それは、本当か?」
つぎっぴーがきょとんと振り向く。
つぼるんは一歩近づいた。
「痛みが強さになるなんて、単純化しすぎじゃないか? ただの『強がり』にしか聞こえない」
風が止まったような静けさが落ちた。
つぎっぴーの金の線が、かすかに震えた。
「……強がりなんかじゃないよ。ぼく、ほんとにそう思ってる」
「思ってるだけじゃ『根拠』にならない」
つぼるんの声は、思ったよりも鋭くなっていた。
「いつも転んで、そのたびに誰かが助けてる。それを前向きって呼ぶのは、違うだろう」
つぎっぴーの目が見開かれた。
胸の奥がチクリと痛んだ。
「……じゃあ、ぼくはどうすればいいの?」
声が少しだけ震えた。
つぼるんは答えられなかった。
自分の言葉が刃物になっていることに、その瞬間は、気づけなかった。
ゆのみんが急いで二人の間に入った。
「まぁまぁ、落ち着いて……。ふたりとも、いまはちょっと『火』が強すぎるよ」
しかし、つぎっぴーは、ゆのみんの声さえもうまく届かず、立ち上がった。
背を向けて歩き出した。
「……ぼくだって、本気なんだよ」
「とりあえずやってみよう」という言葉は、いつも自分の背中を押してくれた。
でも今は、ただ風に消えていく。
つぼるんは立ちすくみ、夕陽に染まるつぎっぴーの後ろ姿をただ見ていた。
ゆのみんが小さく呟いた。
「火の背中って、熱くて、さわれないね……」
つぼるんはその言葉に目を閉じた。
胸の奥がざわつく。
(ぼくは……また、ひとを傷つけたのか?)
丘の上、陶じいがゆっくり近づいてきた。
「火はのう……自分が熱いときほど、他人の熱さがわからん」
つぼるんはゆっくり息を吐く。
「そんな気がします……」
陶じいはそっとつぼるんの背中に手を置いた。
「火を強くするのも弱くするのも、自分じゃ。だがな……『火どうし』が向かい合うとき、焦がすことも、照らすこともできる」
その言葉に、つぼるんの胸の奥の黒土が微かに熱を帯びた。
ゆのみんは、つぎっぴーの金の線を見つめていた。
夕陽の中で、それは美しく光りながらも、どこか寂しげに揺れていた。
三人の間に流れる空気は、もう幼いころのような『ただあたたかい輪』ではなかった。
だがそのひび割れは、後の人生で必ず光に変わる。
――そのことを、若い三人は、まだ気づいてはいなかった。