第61話「三つの帰還」
ひとがまの窯の火は、夜の空気の中でかすかに揺れていた。
つぼるんはひとりで火の前に座り、静かに仲間を待っていた。
……ふたりとも、ここへ向かっている。
確信ではない。
でも胸の奥の『深い火』が、そう告げていた。
火が『ぱち』と音を立てた。
そのとき――外の砂利を踏む音が、そっと近づいてきた。
◆1.ゆのみん、静かに帰る
戸口の影が揺れた。
ゆのみんだった。
その小さな体は、どこか疲れて見えたが、湯気はほのかに温かかった。
「……ただいま、つぼるん」
その一言に、すべてが詰まっていた。
つぼるんはゆっくり立ち上がり、そっとゆのみんを抱きとめた。
「……よく、帰ってきたね」
「……うん」
語らなくても、何があったか分かった。
ゆのみんの湯気は、痛みと安堵が混ざったように揺れていた。
◆2.つぎっぴーの帰還
ほどなくして、外から小さく、『カラン』と器の音が響いた。
遠くから歩いてくる影。
つぎっぴーだった。
「……ただいま」
金線は弱っている。
でもその光は、迷いを越えて帰ってきたものの証だった。
「つぎっぴー……!」
「おかえり」
つぎっぴーは照れたように笑った。
「えへへ……欠けちゃってるけど……もう……継げないけど……それでも、無事に帰ってきたよ」
「継がなくていい。ここで……一緒に温まろう」
その言葉に、金線がふっと揺れた。
◆3.火の前に、三つの器がそろう
三人は、窯の前に並んで座った。
その瞬間――火がふわりと明るくなった。
まるで『三つがそろうのを待っていた』と言わんばかりに。
ゆのみんの湯気が、火の熱に溶けるように上がった。
つぎっぴーの金線が、火の色を反射してやさしく光った。
つぼるんの陶肌が、深い呼吸のように静かに温まっていった。
「……なんだか、懐かしいね」
「うん……ここにいると、自分の温度が戻ってくる気がする」
「帰ってくる場所って、こういうところなんだね」
三人の影が、火の揺れとともにひとつに溶けていった。
◆4.陶じいの影、その奥に隠れた真実
窯の奥から静かな足音が近づいた。
陶じいが姿を見せた。
「……よう帰ってきたの……三つの器よ」
声はやさしい。
ただ、その奥に少しの弱さが混じっていた。
ゆのみんは気づいた。
つぎっぴーは胸の奥がざわついた。
つぼるんは、その意味を知っていた。
陶じいの影は、以前よりも短く、細くなっていた。
「火は……まだ、生きとる。おまえらが帰ってきたからの」
その言葉が、三人の胸に深く染みこんだ。
火が、また『ぱち』と音を立てた。
まるで『ここからまた人生が始まる』と言っているようだった。