第64話「動き出す湯気」
陶じいが亡くなって三日目の朝。
ひとがまに差し込む光は、少しだけ春に近づいたように見えた。
◆ゆのみんの湯気の兆し
ゆのみんは、ふと胸の奥がじんと温かくなるのを感じた。
……あれ? 少しだけ……湯気が……戻ってきた?
まだかすかだが、確かに湯気が立っている。
陶じいを失って以来、初めての感覚だった。
「……わたし……誰かをあたためたい……」
ぽそりと漏れた言葉に、つぼるんとつぎっぴーが同時に顔を上げた。
「ゆのみん……!」
「湯気が……戻っている」
「うん……多分……『誰かの役に立つ』とかじゃなくて……ただ……いっしょにいる仲間をあたためたい……そんな気持ち」
その瞬間、ひとがまの空気がわずかに動いた。
火はまだない。
でも、何かが始まる兆しだった。
◆つぎっぴーの小さな変化
つぎっぴーは、自分の金線を指でそっと触れた。
……あ……なんか……少しだけ、光が戻ってきた……?
もちろん、継ぐことはできない。
でも、金線が『自分の線として存在している』、その実感が、ほんのすこし胸を軽くした。
「……ゆのみんの湯気……ぼくの線にも、温度をくれるんだね」
「うん……わたしの湯気は……みんなの火になるのかもしれない」
◆つぼるんの中で『思考が動き出す』
つぼるんは、ゆのみんとつぎっぴーの変化を見ていた。
すると胸の奥に、水が湧き出すような感覚が生まれた。
……ぼくにも……また考えたいことがあるかもしれない。
初めて、『思索が戻ってきた』気がした。
「……湯気が動けば……線が光れば……ぼくの『深い火』も……きっと動く」
◆三人で『ひとつの火』を試す
「ねえ……今日……火をつけてみない?」
「三人で……?」
「うん……すえじいが最後に言っていた……『三つの火でひとつの灯を戻す』ということができるかもしれない」
迷いはあったが、もう止まっているだけではいられなかった。
三人は窯に向かい、それぞれの役割を自然に分担していた。
ゆのみんは火のそばで空気を送り、
つぎっぴーは薪の位置を調整して、
つぼるんは火を読むようにタイミングを見計らった。
誰も指示しなかった。
誰も考えすぎなかった。
身体が自然に動いた。
そして――
『ぱち』と。
火が、小さく灯った。
「……ついた……!」
「ぼくらでも……灯せたんだ……!」
「三人で……一つの火が……生まれた……」
火はまだ弱い。
かすかな灯りだ。
でも、空白の三日間のあとには、強すぎる光よりも、この『弱くてやさしい火』がちょうどよかった。
三人は、火を囲んで静かに息をした。
……もう一度やり直せる……
胸の奥で、小さな希望が動いた気がした。