第66話「再点火の日常」
火をつけてから数日。
〈ひとがま〉には、ゆっくりとした、しかし確かな『生命の動き』が生まれていた。
◆1.自然に始まった『小さな分担』
つぼるんが外に出ると、ゆのみんが玄関でぽてぽて動いていた。
「朝の風……ちょっと冷たいね。つぼるん、薪、どこに置くんだっけ?」
「ありがとう……ゆのみん。ちょうど薪割りしようと思っていたんだ」
「じゃあわたし、並べたり……運んだり……できるかも」
ゆのみんの湯気は、昨日よりも明るかった。
……自然に、役目が生まれている。
そこへ、つぎっぴーが外から戻ってきた。
「おはよー!ほら見て、枯れ枝たくさん拾ってきたよ!」
「気が利く!つぎっぴー!」
「えへへ、これなら火が元気になるかなと思って」
三人は、肩書きでもなく、役割でもなく、ただ『できること』を持ち寄り始めた。
◆2.再点火すると、心も少しずつ灯り始める
つぎっぴーが枯れ枝を渡す。つぼるんが薪の角度を調整する。ゆのみんが火を見ながら呼吸を整える。
三人の動きは、自然に溶け合っていた。
『ぱちっ』
火がすぐについた。
「……昨日より安定してる!」
「わたしの湯気も、なんか軽いよ」
「火が……ぼくらの『共同作業』に反応している」
そう、火は三人の『生活』に呼応して揺れていた。
◆3.ひとつの小さな『しょうがないね』が三人を救った
昼、ひとがまの掃除を始めることにした。
「あっ……ごめん……砂、散らしちゃった……」
「大丈夫!大丈夫!ぼくなんて、ほら!」
つぎっぴーが土間に自分の金線を反射させて『キラッ』と光らせた瞬間、また少し欠けが落ちた。
『カラン』。
「つぎっぴー!?欠け……」
「えへへ……まあ……こういう日もあるよね!」
「……しょうがないね」
その一言が、驚くほどやさしかった。
……『しょうがないね』……『焦らなくていい』……陶じいの口癖に似ている。
ゆのみんは続けた。
「欠けても……ただの一部だから、大丈夫だよ」
つぎっぴーの金線がふっと柔らかく光った。
◆4.つぼるんの気づき:『頭ではなく、暮らしで学ぶ』
つぼるんは、掃除しながら、ふと思った。
ぼくはずっと……考えることで答えを出してきた。
でも今は……暮らしの中でしか見えないものがある。
火の前での実感、ゆのみんの湯気、つぎっぴーの金線。
考えなくても分かる『実感』があった。
「……これが……第二の人生のスタートなのかもしれない」
◆5.そして、つぼるんが偶然見つける『袋』
掃除を続けていると、ひとがまの棚の奥に古い土の袋が落ちているのを見つけた。
「これ……?」
袋には、かすれた文字でこう書かれていた。
『三つの器で使いなさい』
「……すえじい……の字だね」
「え……これって……!」
つぼるんは袋を抱え、大切に窯の前へ戻った。
胸が、強く打った。
……これは……すえじいが遺した『最後の土』だ。
火の揺らぎが、袋の中の土に反射して金色に見えた。