第6話「金のしずく」
ある日の午後、〈ひとがま〉の丘を風が駆け抜けた。
青い空の下で、つぎっぴーは調子に乗って坂を転がっていた。
「見て見て! ぼく、こんなに早く転がれるよ!」
ゆのみんが「気をつけてね〜」と声をかけた、その瞬間だった。
ガシャーン。
乾いた音が丘に響き、金色の粉のような砂が舞った。
「……あっ」
つぎっぴーの縁が欠けていた。
小さな破片が、草の上にころんと落ちて光った。
「だいじょうぶ?」
ゆのみんが駆け寄ると、つぎっぴーはうつむいて笑おうとした。
でも笑えなかった。
「なんか……大事なものが、こぼれちゃった気がする」
そこへ、土の匂いをまとって陶じいがやってきた。
「おやまぁ。元気な火ほど、よく跳ねるのう」
陶じいはつぎっぴーを両手で包みこみ、ひびの部分を静かに見つめた。
「痛いかの?」
「……うん。でも、なんか、くすぐったい感じもする」
陶じいは、机の上にある小瓶を開けた。
中には、細かな金の粉が静かに沈んでいる。
「これが『金のしずく』じゃ」
筆の先で金をすくい、欠けた部分にそっと触れる。
つぎっぴーの中に、あたたかい光が流れこんでいった。
痛みがやわらぎ、欠け目から、かすかな輝きがにじむ。
「ねぇ、これ……キレイだね」
「そうじゃ。傷はのう、心が育った証じゃ。欠けを隠すんやない。そこを光らせるんじゃ」
ゆのみんが湯気をふわりとのせ、つぼるんが静かに言葉を添えた。
「痛みが美しくなる……そんなこと、あるんだね」
つぎっぴーは、自分の縁にできた金の線を見つめた。
それは、涙のあとみたいに光っていた。
「……ありがとう。欠けても、つながれば、もっと強くなるんだね」
陶じいは笑い、
「そうじゃ。それが『生きる』という焼き方じゃ」と答えた。
夕方、坂の向こうの空が金色に染まった。
風が吹き、金のしずくが夕日に反射して、丘全体がやわらかく輝いていた。
その光景を見ながら、つぎっぴーは心の奥で誓った。
いつか、だれかの『欠け』も、光に変えられるようになりたい。
その決意の火が、まだ幼い器の中で、確かに、あたたかく燃えはじめていた。