第5話「まねるはまなぶの始まり」
窯の外は春の雨。
屋根を打つ水の音が、ひとつのリズムになっていた。
つぼるんはその音を聞きながら、しずかに土の上に座っていた。
「ねぇ、陶じい。どうして火を入れる前に、こんなに待つの?」
つぼるんが尋ねると、陶じいは土をこねる手を止めずに言った。
「焦るとヒビが入るんじゃ。土は、急がすと泣くんじゃ」
その言葉を聞いて、つぼるんは目を細めた。
焦ると、ヒビが入る。
どこかで聞いたことのある言葉。
自分の中でもそれが響いた。
その日の午後、つぎっぴーが転んで小石を散らかし、ゆのみんが笑いながら手伝っていた。
そのとき、つぼるんは小さく咳払いをして言った。
「焦るとヒビが入るんじゃ」
一瞬、二人が目を丸くした。
つぎっぴーは「えっ、それ、陶じいのまねじゃん!」と笑い、
ゆのみんは優しく首をかしげた。
「でもつぼるん、それ、ほんとうに『つぼるんの言葉』かな?」
その一言が、つぼるんの胸に刺さった。
ゆのみんの湯気がふわりと広がる。
つぼるんはしばらく黙っていた。
自分の中の『火』が、まだ小さくくすぶっているような気がした。
夜、雨は止んで、窯の煙突から薄い煙が立ちのぼる。
陶じいは焚き口の前に座っていた。
「どうした、つぼるん。今日は静かじゃの」
「……ぼく、自分の言葉を言いたいんだけど、うまく出てこないんだ」
陶じいはゆっくりと笑った。
「言葉は、まねから育つんじゃ。けど、まねた火は、いずれおまえの色で燃える。焦るでない。焼き上がりには、時間がいるもんじゃ」
その言葉に、つぼるんは少しだけ肩の力を抜いた。
「……じゃあ、まねてもいいの?」
「うむ。まねるは『まなぶ』の始まりじゃ」
その夜、つぼるんは雨のしずくを見つめながら思った。
焦らずに、ぼくの火を育てよう。
静かな風が窯の中を通り抜け、壁に映った三つの影がゆらめいた。
ゆのみんの湯気、つぎっぴーの金の線、そしてつぼるんの小さな火。
その火はまだ弱かったけれど、確かに、彼自身の色で燃えはじめていた。