第7話「「間」も焼きのうち」
〈ひとがま〉の庭に、春の陽だまりが広がっていた。
窯の火を止めたあと、しばしの静けさ。
けれど、つぎっぴーとつぼるんは、なぜかそわそわしていた。
「ねぇねぇ、陶じい、次は何つくるの? また火を入れようよ!」
つぎっぴーが身を乗り出す。
その隣で、つぼるんも眉を寄せていた。
「ぼくも、次の『問い』がほしい。昨日の話のつづきを、もう少し深めたいんだ」
ふたりの声が重なると、陶じいはゆっくりと土をこねる手を止め、静かに笑った。
「おまえさんたち、まだ湯気が立っとるのう。火を止めても、器はすぐには冷めん。焦るとヒビが入るんじゃ。何事も大器晩成じゃ」
けれど二人は首をかしげる。
「でも、止まってたら冷めちゃうよ」
「『動かない時間』って、なにか意味があるの?」
陶じいは答えずに、庭の端に置かれたゆのみんを指さした。
ゆのみんは、ぽてっと丸い体をゆらしながら、湯気をゆっくりと吐き出していた。
「まぁまぁ、まずは一息いれよっか」
そう言って、ほんのり温かいお茶の香りを漂わせる。
つぎっぴーが不思議そうに尋ねた。
「ねぇ、ゆのみん。なんでそんなにのんびりしてられるの?」
ゆのみんは笑って答える。
「火を消したあとってね、心の中に『余白』ができるんだよ。そこに、次のあたたかさが生まれるの」
「余白……?」
つぼるんはその言葉を反芻し、つぎっぴーは地面に座ってため息をついた。
「じゃあ、今は、なにもしない時間ってこと?」
「ううん。なにもしない、を『してる』時間」
陶じいが湯呑を手に取り、お茶をひとくち啜った。
「うむ。『間』もまた、焼きのうちじゃ」
その言葉に、三人は顔を見合わせた。
風が吹き、湯気が静かに揺れる。
つぼるんの胸の中で、『動かないという行動』という新しい問いが芽生えた。
そして、つぎっぴーは少し照れたように笑って言った。
「じゃあ、ぼく……『ひと休み』してみようかな」
「えらいえらい」と、ゆのみんがやさしく微笑む。
陽の光が湯気を透かし、三人の影をやわらかく包みこんだ。
その静けさの中に、確かな火のぬくもりがあった。
――その日から、〈ひとがま〉には『休む時間』という習慣が生まれた。器たちが成長するたび、火を止め、風を聴き、次の『心の焼き』を待つ時間。
それは、彼らが大人になっても忘れない『間』の哲学のはじまりだった。