第46話「励ましすぎる疲労」
つぎっぴーは、異国の山あいにひっそり佇む『青い窯』で働いていた。
ここは市場の店主『マルタ』の工房でもあり倉庫でもあった。
子どもたちの器、旅人の器、アーティストたちの器が集まる不思議な場所。
「おはよー!今日も継ぐぞー!」
つぎっぴーは明るく声を出し、仲間の器たちに金線を光らせてみせた。
でも――その光は、以前より少しだけ曇っていた。
◆若手たちが、つぎっぴーを『頼りすぎている』
「つぎっぴーさん、ここ欠けちゃって…!」
「ぼくの金線、どうしたらもっと輝きますか?」
「私の作品がなかなか採用されなくて……」
つぎっぴーは笑顔で答えた。
「だいじょうぶ! 欠けても、つながればもっと強くなるよ!」
「とりあえずやってみよう! ほら、少しずつ直してみよ!」
「きみの作品、ちゃんと光ってるじゃん! それだけで素晴らしいよ!」
若手たちは安心したようにうなずいた。
でも、つぎっぴーの胸の奥で、小さな疲労が確かに広がり始めていた。
……なんだろう。励ますたびに……ちょっとだけ息が重くなる……
ぼく、本当は……自分が励まされたいのかも……
金線の端が、かすかに『チリ……』と鳴った。
◆新しいプロジェクトの話が来た
ある夕方。
青い窯の主である『マルタ』が声をかけてきた。
「つぎっぴー。大きな展示会の話が来てる。あなたの再生の技術を、世界に見せるチャンスだ」
つぎっぴーは、反射的に笑顔を作った。
「す、すごいね! えーっと……とりあえず、やってみよう、かな……?」
でもマルタは気づいていた。
「……あなた、どこか無理してない?」
つぎっぴーの金線がぴくりと揺れた。
「えっ……ぼく? そんなわけ……」
「最近、あなたの金継ぎ……『つなぐ線』が細くなっている」
つぎっぴーの胸がずきんと痛んだ。
気づかれてた……。
でも気づかれて……ホッとしてる……?
◆夜、窯の前でひとりになる
若手たちが寝静まり、窯の火だけがゆらゆら揺れていた。
つぎっぴーは金線を見つめながら、胸の奥にたまった重さを抱え込んでいた。
ぼく……本当に、もう一度挑戦できるのかな……
火がぱちりと跳ねた。
その瞬間だった。
耳の奥で、『ふわり』と懐かしい声がした。
「つぎっぴー……?」
ゆのみんの声だった。
振り向くと――ありえない光景が広がっていた。
ゆのみんが、つぼるんが、窯の前に立っていたのだ。
ありえない。
二人は海の向こうにいるはずなのに。
でも、つぎっぴーは、その『不自然さ』より先に、胸の奥で何かがほどけていくのを感じた。
ゆのみんがやさしく言った。
「なんだか……金線、疲れてない?」
つぼるんが静かに続けた。
「『とりあえずやってみよう』って……本当に自分の言葉だったか?」
二人の声は、まるで遠い記憶から響いてくるようにゆっくりと染み込んでいった。
つぎっぴーの目の前で、二人はまるで湯気のように揺らいでいた。
あれ……? これって……もしかして……
つぎっぴーは、その瞬間、これが夢だったことに気づいた。
ただ、それは現実と地続きなほど、はっきりとした夢で、二人の言葉がずっと胸に響いていた。
「まぁまぁ、まずは一息いれよっか」
「焦らず、折れそうなときは、いったん内省しよう」
二人がそっと寄り添い、金線に手(のイメージ)を添えた瞬間――
つぎっぴーは、自分の金線の奥底でひとつだけ揺らいでいた『本音』に触れた。
ぼく……本当は……少しだけ怖かったんだ……
金線がかすかに光を取り戻した瞬間、二人の姿は、ゆっくりと霧のように溶けていき……気づくと、つぎっぴーは再びひとりで窯の前に立っていた。
静かな夜風が、金線をそっと撫でていった。
……そっか、これが現実だ。
でも、二人に会って思い出せたよ……あの頃のぼくの『出発点』。
つぎっぴーは、小さく深呼吸をした。