第48話「決意の火」
展示会まで、あと三週間。
つぎっぴーの机には、修復途中の器たちがずらりと並んでいた。
金線が途中で止まったもの。
色がまだ定着していないもの。
つぎっぴー自身の器の欠け。
間に合うのかな……こんな調子で……
頭の中に霧がかかったようで、どこから手をつければいいのか分からなかった。
◆若手からの一言
若手のひとりが、おそるおそる声をかけた。
「つぎっぴーさん……今日、なんか……いつもと違います?」
つぎっぴーは、反射的に笑った。
「えっ、そう? 大丈夫、大丈夫! 欠けても、つながれば……」
言いかけて――言葉が止まった。
……この言い方……ぼくの本音じゃ、ない……
若手も気づいていた。
「つぎっぴーさん……疲れてるなら、少し休んだほうが……」
つぎっぴーの中で、『ふっと』何かがほどけた。
あ……ぼく、もう……隠せてないんだ……
金線が、かすかに揺れた。
◆マルタとの会話
夕方、窯の火を見ていたマルタがそっと声をかけてきた。
「つぎっぴー。今日のあなた……光ってないじゃない」
「……うん。ごめん……」
マルタはため息ではなく、あたたかい息を吐いた。
「あなたはね、誰かを励ますために金継ぎをするんじゃないの」
「え……?」
「あなた自身が、『つながりたい』と願うからその金線は輝くの」
……つながりたい……ぼくが……?
胸の奥で、昨日の夢の声がよみがえった。
『まずは一息いれよっか』
『焦らずに、内省しよう』
……ぼくは……本当は何を選びたいんだろう……
◆夜、窯の火の前で『決意』が生まれる
つぎっぴーは、火の真ん前に座った。
炎の赤、金粉の光、器の影。
全部が、自分に問いかけているようだった。
ぼく……誰かの期待のために挑戦してた……?
世界に見せたいんじゃなくて……『世界に見せなきゃ』って思ってた……?
金線が小さく鳴った。
違う……ぼく……もう一度、『つながりたい』んだ。
欠けても、傷ついても、やり直せるって……
ぼく自身が……それを証明したいんだ。
『ふっと』金線の曇りが晴れた。
ゆっくりと、光が戻っていった。
「……ぼく、展示会……やるよ」
声は震えていた。
でも、言葉は揺れていなかった。
「『とりあえず』じゃない。ちゃんと、自分で選んでやる!」
火がぱちりと跳ね、祝福するように光った。
◆翌朝のつぎっぴーは『少しだけ違っていた』
若手の器たちが集まり、つぎっぴーの机をのぞき込んだ。
「つぎっぴーさん……なんか今日、いつもより光ってません?」
つぎっぴーは照れたように笑った。
「ちょっとね。昨日……自分の中でね、自分と、ひとつにつながったから」
金線が、はっきりとした光を放っていた。
若手たちは、自然と笑顔になった。
◆最後に、窯の外で空を見上げる
展示会まで、もうわずか数日。
これからも不安はある。
迷いもある。
でも、つぎっぴーの中には確かにひとつの『決意の火』が生まれていた。
ぼくは……もう一度、やるんだ。ぼく自身のために。
ぼくの金線を……ぼくが信じるために。
夜空に浮かぶ星が、その決意を照らすようにそっと瞬いていた。