第63話「空白の三日間」
陶じいが空に還った夜から、〈ひとがま〉はかつてないほど静まり返っていた。
翌朝の光が差しても、窯の前には火がなく、三人はそれぞれの場所で小さく息をしていた。
ゆのみんは土間の隅で、湯気をうっすら漂わせながら座っていた。
……湯気が……出にくい。
家族の食卓から追い出された日よりも、ずっと冷たくなっている気がした。
つぎっぴーは、窓際で金線を見つめていた。
……ぼく……ほんとに、何も継ぐことができない……
金線はいつもの光を失い、少し灰色を帯びていた。
つぼるんは、ノートを開いたまま動かなかった。
考えても……なにも浮かばない……こんなの、初めてだ。
いつもなら『内省の世界』に入れば、答えが見えてくるはずなのに。
今日は、何も起きない。
ただ時間だけが過ぎる。
火の音もなく。話し声もなく。陶じいの咳払いもなく。
『何もない時間』が流れ続けた。
◆『何かしよう』と思っても、身体が動かない
「……火……つける……?」
誰に向けたでもない声。
「ううん……まだいいよ……」
湯気がまた一つ弱くなった。
「……ぼくら……すえじいの声がしない場所で……どうやって過ごせばいいんだろう」
誰も答えなかった。
『答える気力』もなかった。
それは悲しみというより、大きな存在を失った後に訪れる『果てしない空白』だった。
家族の器ではなくなったゆのみん。
職人の器ではなくなったつぎっぴー。
学びとやりがいの場所を失ったつぼるん。
みんな、それぞれで空白の自分を抱えたまま、さらに大きな『空白』の中に静かに沈んでいた。
◆ゆのみんの湯気が、一度だけ揺れた
その日の夜、ゆのみんはふいに、小さな湯気を上げた。
『ぽっ』と。
ほんの一瞬だった。
「……ゆのみん?」
「……わたし……あっためたいけど……誰をあっためればいいかわからない……」
「それは……ぼくらも同じだよ」
つぎっぴーはゆっくり寄り添った。
「……今日は誰もあっためなくていい。三人で……ただ、いよう」
ゆのみんの湯気が、その言葉に小さく揺れた。
◆空白の三日間が、生まれ変わりの入口になる
三人はこの日、何もしなかった。
そして、何も決めなかった。
すると、『空白』の奥で何かが動いてくるのがわかった。
それは、陶じいという大きな火を失った器たちが、ようやく自分自身の温度を取り戻すための、とても静かで、とても大切な時間だった。
夜、窯の影が三つの器を包み込み、三人は火のない場所で寄り添って眠った。
……ここから……きっと何かが、始まる気がする。
それぞれの胸で同じ予感が、ゆっくり芽を出し始めていた。