第10話「あたたかさはめぐる」
〈ひとがま〉の山あいに、雨が降っていた。
しとしとと、屋根を叩く音。
窯の火は消え、世界はしんと静まっている。
「今日は、火も休みじゃな」
陶じいがつぶやき、土の上に腰を下ろした。
ゆのみんは、ぬるめのお湯を自分の中にため、ぽうっと淡い湯気を立ちのぼらせた。
「ねぇ、なんだか、いろんな音が聞こえるね」
「音?」
つぎっぴーが首をかしげると、ゆのみんは目を細めて言った。
「うん。ほら、屋根の音、風の音、そして……ここ」
胸のあたりをとん、と叩く。
「この中で、『ぽこぽこ』って、小さな音がしてるの」
つぼるんはその言葉に耳をすました。
「それ、もしかして――『記憶の音』かも」
「きおく?」
「うん。前に坂で転んだ音とか、森で聞いた声とか、全部、ぼくたちの中でまだ鳴ってる気がするんだ」
「へぇ……心の中に、音が残るんだね」
つぎっぴーが笑い、「じゃあぼくの『ガシャーン』も入ってる?」
「もちろん」
ゆのみんが微笑む。
「でもね、痛かった音も、いまは『やさしい音』になってるよ」
三人は静かに並んで雨を見ていた。
窯の煙突からは、もう煙は出ていない。
けれど、ゆのみんの湯気だけが、細く、静かに空へと上がっていた。
「ねぇ、この湯気、どこまで行くのかな」
つぼるんがぽつりと呟く。
陶じいはにっこり笑った。
「湯気はな、見えんところで輪になる。また戻ってきて、次の火を呼ぶんじゃ」
ゆのみんが目を見開く。
「じゃあ、この湯気、また会えるんだね」
「うむ。あったかさは、形を変えてめぐる。人も器も、そうやって続いていくんじゃ」
その言葉に、三人は空を見上げた。
雨はやんで、雲の切れ間から光が差しこむ。
湯気がその光を受け、金色に輝く。
まるで、ひとつの『輪』が空の中に浮かんでいるようだった。
つぼるんがそっとつぶやく。
「……あの日の湯気、まだ心の中で立ってる気がする」
「ぼくも」
「わたしも」
三人の声が重なり、雨上がりの空に静かに溶けていった。
その光景を見つめながら、陶じいは目を細めた。
「うむ……ええ湯気じゃ」
彼の掌の中で、まだ乾ききらぬ土が、小さく、あたたかく脈打っていた。