第11話「土の学校」
朝の山の空気は、ひんやりとして澄んでいた。
今日、三人は初めて『学校』と呼ばれる場所へ行くことになっていた。
「がっこうって、なにをするところなの?」
つぎっぴーが金線をキラキラさせながら聞く。
陶じいは、背負っていた荷物を地面に降ろしながら笑った。
「土の子どもたちに、『自分の土』を教えるところじゃよ」
「自分の土……?」
つぼるんが目を細めた。
その言葉には、深い問いの香りがあった。
ゆのみんは湯気をふわっと広げる。
「まぁまぁ、行ってみよっか。きっとあったかいところだよ」
学校は、〈ひとがま〉の裏山の奥にあった。
木々の間の小さな空き地に、陶じいが整えた土の机と、石で組まれた簡素な黒板があるだけの、静かな『野の教室』だった。
陶じいが大きな土の袋を広げた。
白土、赤土、黒土が、ふわりと空気に香りを放つ。
「みんな、これを触ってみなさい」
ゆのみんが白土にそっと触れた。
「やわらかい……」
と湯気を揺らした。
つぼるんは黒土を手に取り、長く息を吐く。
「重いけど……なんだか落ちつく」
つぎっぴーは赤土を掴んで大声を上げた。
「わっ!これ、あったかい!」
陶じいは、三人の手つきを見て、深くうなずいた。
「土には、火の入り方、ひびの入り方、音の鳴り方……全部ちがう。土の違いは、『欠けやすさの違い』でも、『強さの違い』でもない。ただ、『ちがう』だけじゃ」
つぼるんが手を止めた。
「じゃあ……ぼくらって、ちがって当たり前ってこと?」
「そうじゃ。ちがいを恥じる必要はない。むしろ、『自分の土』を知るのが、大切に生きる第一歩じゃ」
その言葉に、つぎっぴーは少し胸を張った。
「ぼく、ちょっと欠けやすいけど……それでいい?」
陶じいは、優しく笑った。
「もちろんじゃ。おまえは『金でつなぐ土』じゃからの。欠けるほど、美しく光る土じゃ」
ゆのみんは自分の体を見下ろした。
「わたしは……温度の変化が大きいけど、すぐに温め直せる土なのかも」
「うむうむ」
陶じいは満足そうに頷いた。
そして黒土を手にしたつぼるんを見て言った。
「おまえさんは、『問いを抱える土』じゃ。黒土は、火を深く吸い、ゆっくり答えを返す。時間をかけて、味が出る土よ」
つぼるんは少しだけ照れたように目を伏せた。
でも胸の奥で、何かが確かに温まっていた。
授業が終わるころ、陶じいは空を見上げた。
薄雲の間から、光がこぼれていた。
「土を知ることは、自分を知ることじゃ。ここから先、誰と出会っても、どんな風に吹かれても、『自分の土』を忘れなければ、道に迷うことはない」
三人は黙ってその言葉を受け止めた。
帰り道、ゆのみんがぽつりと言う。
「ねぇ……なんだか今日、わたし、心がぽかぽかしてる」
「ぼくも。火がちょっと強くなった気がする!」
つぎっぴーが跳ねる。
つぼるんは静かに呟いた。
「自分の土って……見えないけど、確かにあるんだね」
三人が並んで歩く影は、夕陽に照らされて、どれも違う形をしていた。
でも、不思議と、それがとても美しく見えた。