第20話「同じ夜空の下で」
夜の〈ひとがま〉は、昼間の熱をようやく手放し、山の風が静かに降りてきていた。
三人は――同じ場所にはいなかった。
けれど、それぞれが『夜空』を見上げていた。
<ゆのみん>
陶房の前で、ほんのり湯気を灯しながら空を眺めていた。
空にひとつ、やわらかい星が光った。
今日、ちゃんと歩けた。
ふたりと一緒に……それが、なんだか嬉しかったな。
ゆのみんは胸に手を当てた。
湯気は弱くない。
いつもの『あたたかさ』が戻りつつあった。
「……つぎっぴー、つぼるん。ありがとう」
声には、うまく出さなかった。
風に散るのが、まだこわかった。
でも、胸の奥の『ありがとう』は、消えずに残っていた。
<つぼるん>
裏山の高台。
土の匂いが濃い場所で、つぼるんは静かに座っていた。
夜空の青が、壺の藍色に溶けていった。
ぼく……言葉にするのが遅いんだ。
でも今日は、少し話せた。
昨日のぼくより、すこしだけ。
その事実が、胸の黒土をほんの少しだけ軽くした。
……ゆのみん。聞いてくれて、ありがとう。
……つぎっぴー。歩いてきてくれて、ありがとう。
口には出さなかった。
でも、確かにそれは胸にあった。
夜風が藍色の陶肌を撫でた。
<つぎっぴー>
坂の途中。いつも走っていた場所を、今日は歩いていた。
金継ぎの線が、暗闇のなかで小さく光った。
今日……手、伸ばしてくれたよね、つぼるん。
ふいに胸が熱くなった。
その熱は、痛みと希望のどちらとも違う、『しずかに芯へ届くぬくもり』だった。
そして……ゆのみん。ぼくのペースに合わせて歩いてくれて……ありがとう。
けれど、つぎっぴーもまた声には出さなかった。
ただ、星に向かって小さく息を吐いた。
「……とりあえず、また明日も歩こう!」
その言葉は、夜空にやわらかく消えていった。
<三つの場所、ひとつの空>
ゆのみん。つぼるん。つぎっぴー。
三人は今、互いの姿は見えていない。
同じ場所にもいない。
でも――同じ夜空の下で、同じ星を見ていた。
それは偶然のようで、必然のようでもあった。
まるで星座が、三人の関係をそっと結び直しているかのようだった。
陶じいが、家の前で空を見上げながらつぶやいた。
「……『絆』ってのはのう。ひっぱると切れて、ゆるめると、自然とつながるもんじゃ。焦らんでええ。何事も大器晩成じゃ」
遠く離れた三人の胸で、同じ言葉が静かに響いていた。
夜空の下で、三人の心の距離は、ほんの少しだけ近づいていた。
まだ不完全で、まだ子どもで、まだ言葉にならないけれど――。
これが、彼らの10代の終わりに訪れた大切な『成熟のかけら』だった。