第21話「進路という分かれ道」
春の匂いが、〈ひとがま〉に静かに広がっていた。
陶房の前の桜はまだ蕾のまま。
しかし、旅立ちの時は刻一刻と近づいている。
三人の胸の中には、ひと足早く『春のざわざわ』が訪れていた。
◆ゆのみん
ぽてぽて歩きながら、胸に手を当てていた。
これからの進路って……どうなるんだろう?
人のあたたかさに関わることをしたいけど……
それは『仕事』って呼べるのかな?
湯気がふわりと揺れた。
できれば……ふたりとずっと近くがいい。
でも……
言葉にならない不安が、胸に少しつまっていた。
◆つぼるん
窯の裏に座り、土のかけらをじっと見つめていた。
知りたいことはたくさんある。
世界のこと、人のこと、自分のこと……
でもそれをどうやって『かたち』にするんだろう?
内省は深まるばかりで、この先は、霧の中のようにぼんやりしていた。
……ふたりは、どう考えてるんだろう。
そう思った瞬間、胸がぎゅっとなった。
比較でも嫉妬でもない。
ただ、よくわからない『ざわつき』が、そこにあった。
◆つぎっぴー
坂道で、珍しく走らずに立ち止まっていた。
なんだか……焦るなぁ。
ぼく、いつも勢いで動いてるけど、
『未来を決める』って言われると足が止まる……
金継ぎの線が曇ったように見えた。
「とりあえずやってみよう!」
いつもの口癖を言おうとして――言えなかった。
……本当にやってみていいのかな?
間違えたらどうしよう……
◆三人の『分かれ道』
夕方、ゆのみんが陶房に戻ると、つぎっぴーとつぼるんがいた。
三人の影が、まるで違う方向を向いていた。
ゆのみんが、勇気を出して口を開いた。
「ふたりは……進路、どう考えてる?」
つぎっぴーが、珍しく弱気な声を出した。
「ぼく……なんにも決められないや。間違えるのがこわい」
つぼるんが、静かに答えた。
「ぼくは……決められないというより、『わかりすぎてこわい』。これから選ぶものが、ぼくのすべてを決めてしまう気がするから」
ゆのみんは湯気をふわっと広げた。
「……そっか。ふたりとも、ちゃんと考えてるんだね」
つぎっぴーが焦ったように言った。
「ゆのみんは? どっ、どうなんだい?」
ゆのみんは小さく笑った。
「わたしも……こわいよ。みんなと『同じ方向』じゃなくなるのかなって……」
三人は黙った。
その沈黙は、10代のときよりも重く、でも、どこか温度をもっていた。
陶じいが奥から現れた。
ゆっくり言った。
「未来ってのはのう、どうなるか誰にもわからん。だから、『ひとまずの方向』でええんじゃ。本当の道かどうかは、歩いとるうちにわかる」
三人ははじめて、『進路=未来』ではなく『進路=今選ぶ方向性の一つ』なのだと理解した。
夕陽に伸びる三つの影は、どこか違う方向を向いていた。
でも、影の根元は同じ場所にあった。