第23話「それぞれの進路へ」
春の風が、〈ひとがま〉の周りをゆっくり撫でていた。
卒業して数日――三人は自然と土間に集まっていたが、以前とはどこか違う空気が流れていた。
◆ゆのみん
ぽてぽてと土間を歩きながら、胸の湯気が迷っていた。
『あたたかい家庭』ってどんな場所なんだろう。
人のそばにいたいけど、それが仕事なのか、居場所なのか……
そんなことを考えていたある日、〈ひとがま〉に近所の家族がやってきた。
「この子がね、ゆのみんちゃんのそばにいると落ち着くって」
母親は優しく笑って言った。
ゆのみんの胸にふっと灯りがともった。
家庭の中で『ぬくもり』を育てる。
それも……一つの生き方なのかもしれない。
気づかぬうちに、ゆのみんの『進路の芽』は芽吹いていた。
◆つぎっぴー
坂道の向こうで、旅商人が見せてくれた『世界地図』に目を奪われた。
「外の世界は広いぞ、坊や」
胸がぐらっと揺れた。
外の世界……!
走れる道がこんなにあるなんて!
ぼく、行ってみたい……!
陶じいは静かに言った。
「行きたいなら、怖くても行ったらええ。欠けたら帰ってきてもええ。けど、欠けたままでも歩けるのが『おまえの良さ』じゃ」
つぎっぴーは胸が熱くなるのを感じた。
海外……行けるのかな?
いや、行く。
とりあえず、やってみるんだ……!
金継ぎの線が朝陽を受けて輝いた。
◆つぼるん
ある日、公共施設の人が〈ひとがま〉に視察に来た。
「こんなに深く考えられた壺は見たことない。よければ、市の『地域学習センター』で一緒に働かないか?」
つぼるんは驚いた。
(ぼくの考えることが……誰かの役に立つ?)
ひとの学びや生活を支える仕事……。
それは、たしかに惹かれる。
『考えるだけの自分』から脱皮できる気がした。
胸の黒土が、すこし柔らかくなった。
公共という場所で……ぼくの思索を外に出す。
それも、進路なのかもしれない。
◆三人の影が別方向へ伸びる
夕方、また三人は〈ひとがま〉に集まった。
ゆのみんの湯気は、どこか『家庭のあたたかさ』を含んでいて。
つぎっぴーの金線は、どこか『外の風』を待っているように揺れていて。
つぼるんの陶肌は、どこか『公共の静かな責任』を帯びはじめていた。
それぞれの未来が、少しずつ輪郭を持ちはじめていた。
ゆのみんが小さく言った。
「……進む場所、みんなちょっとずつ違うんだね」
つぎっぴーが言った。
「うん……なんか、ワクワクもあるけど……ほんのちょっとだけ、さびしい」
つぼるんは静かに頷いた。
「でも……〈ひとがま〉には、いつでも戻ってこれる。陶じいが言ってた『帰る場所』だ」
その言葉に、三人の胸が同時にゆるんだ。
そして、夕陽に照らされた三人の影は、それぞれ別方向へ伸びていった。