第27話「選んだ道、選ばなかった道」
三人が別々の道を歩き始めて、季節がひとつ変わった。
山の風は少し冷たくなり、小さな影が三つ、違う場所で揺れていた。
◆ゆのみん――『あたたかさ』と『孤独』のあいだ
ゆのみんは、一般家庭の台所に置かれていた。
毎朝、家族がそばにいた。
お母さんは優しく、子どもは「ゆのみん、あったかい~」と言って抱きしめてくれた。
この家……あたたかい。
わたし、ここで役に立ってるのかな。
そうだったらいいな。
湯気がほんのり広がる。
けれど夜、誰もいなくなった台所でふと胸がしずんだ。
……ふたりはいま、どうしてるんだろう。
誰も答えない部屋で、湯気だけが静かに揺れていた。
◆つぎっぴー――『外の世界』の最初の壁
つぎっぴーは港町を出て、大きな船で、いくつもの海を越えた。
見たことのない景色。
聞き取れない言葉。
走り回る人々の速さ。
す、すごい……!
ぼく、こういうの、ずっと見たかった!
胸は高鳴った。
でも同時に、金線がきゅっと縮んだ。
でも……何もかも、ぼくが知らない世界だ。
一歩踏み出すたびに、ぼくの『欠け』が見えちゃう気がする……
興奮と不安が、波のように胸を打っていた。
◆つぼるん――『考える仕事』の重さ
つぼるんは、地域学習センターの一室で資料の山に囲まれていた。
市民の相談、学びの支援、企画づくり。
やることは多く、責任は重い。
これは……大変だな。
でも……ぼくの考えが、誰かの日常を少し変えるかもしれない。
陶肌がわずかに光った。
だが夕方、その光は少し曇った。
つぎっぴーは今どこにいるんだろう?
ゆのみんは、あの家庭で、うまくやっているだろうか……。
ぼくの進路は、本当に、これで良かったのかな。
選んだ道の正しさを信じたいのに、時おり胸の奥が沈んだ。
◆そして、三人は同じ日に〈ひとがま〉へ戻った
いくつかの季節が巡り、ある日の深夜、誰も約束していないのに、三人は偶然、同じタイミングで〈ひとがま〉に戻ってきた。
先にいたのはゆのみんだった。
「……ただいま」
陶房の土間に小さく湯気が立った。
少し遅れて、山道からつぼるんが現れた。
「ああ……ゆのみん。ぼくも今、久しぶりに帰ってきたところだ」
つぎっぴーは、少し日に焼けた姿で駆けてきた。
「わっ、ふたりとも!? ぼくも、今日ちょうど帰国して戻ってきたんだよ!」
久しぶりの再会に、三人の胸が同時に熱くなった。
ああ……帰ってきたんだ。
◆でも、話しはじめると『違和感』が走った
ゆのみんが言った。
「わたしね……この家族、とてもあたたかくて……」
つぎっぴーも話し始めた。
「ぼく、海の向こうすごかったよ! 知らない場所で、すべてが新しくて……」
つぼるんも続けた。
「ぼくは……自分の考えが誰かに届くのは嬉しいし、大きな責任も与えられて……」
三人の話は一見『共有』に見えた。
だがその奥に、小さな違和感が走った。
あれ……こんなにも『別の人生』になってきたんだ。
前みたいに、全部を分かり合えるわけじゃ……ない?
誰も言わない。
でも、胸の奥ににほこりのような息苦しい寂しさが積もった。
◆陶じいが土間に戻ってきた
物音に気付いた陶じいが、寝床から土間にやってきた。
「おお……三人ともそろっとるのか。ええ顔じゃ」
三人は少し照れながら笑った。
陶じいは土間に腰をおろした。
指先で土をほぐしながら言った。
「道はな、選んだあとから、本当の意味で重くなる。選ばんかった道も、同じように影を落とすもんじゃ」
三人は思わず息を飲んだ。
陶じいは続けた。
「けど、影があるから、火が見える。影を恐れるな。光は、いつも影とおる」
夕陽が三人の影をゆっくりのばしていった。
選んだ道。
選ばなかった道。
その両方に、三人それぞれの色が宿りはじめていた。