第28話「言えなかったひと言」
三人はまた、別々の道へ帰っていった。
次の日、同じタイミングで〈ひとがま〉に戻った再会の温度を胸に残したまま、それぞれの居場所で夕暮れを迎えていた。
◆ゆのみん――『さみしい』を飲み込んだ夜
家庭の台所に戻ると、子どもが嬉しそうに抱きしめてきた。
「ゆのみん、会いたかったよ! 家出したのかと思った!」
ただいま……
ゆのみんはやさしく湯気をふわりと出した。
でも、胸の奥で別の温度が揺れた。
……昨日、ふたりと話して気づいた。
わたし、どこかで『さみしい』って言いたかったんだ。
家庭はあたたかい。
でも、ふたりの話しぶりを聞いて胸が少しだけしずんだのも事実だった。
わたし……本当は、『そばにいてほしい』って言いたかった。
その言葉は湯気になって消え、台所の天井へと静かに昇っていった。
◆つぎっぴー ――『こわい』を隠して走った夜
つぎっぴーは海辺の宿に戻る途中、港に並ぶ異国のランタンを見つめていた。
外の世界は美しい。刺激的で、胸が踊る。
でも――それだけじゃなかった。
ぼく……こわいんだ。
気づけば金継ぎの線が、潮風でひんやりしていた。
ふたりはどう思っただろう。
『いいな』って思ってくれた? それとも『無謀だ』って思った?
本当は、不安で足が震える夜もあった。
でも、口に出せなかった。
『こわい』って言ったら、ぼくが折れてしまいそうで……
潮の香りと一緒に、こぼれなかった言葉が胸にしみこんだ。
◆つぼるん――『助けてほしい』を抱えた夕暮れ
つぼるんは仕事帰り、図書館の前のベンチに座っていた。
膝の上には、企画書とメモの束。
うまくいかないな……
責任は重く、市民の声も多い。
ふたりならどうするだろう……
ゆのみんのやさしさも、つぎっぴーの行動力も、今のつぼるんにはまぶしすぎた。
本当は……『助けて』って言いたかった。
けれど、自分が口にする『助けて』は、ふたりを縛る言葉になるような気がしてどうしても言えなかった。
つぼるんはため息をひとつ落とし、空を見上げた。
夕暮れの影が、胸の奥の土にゆっくり沈んでいった。
◆三人とも、同じ『声』を抱えていた
ゆのみんは『さみしい』と言えなかった。
つぎっぴーは『こわい』と言えなかった。
つぼるんは『助けて』と言えなかった。
それぞれの胸に残った、小さくて大切な一言。
その言葉たちは、〈ひとがま〉の土間にぽつり、ぽつり、と落ちていくようだった。
誰も言わなかった言葉は土の中で眠りながら――いつか、ひとつの物語へとつながっていく。
ただ、三人はまだ知らなかった。
言えなかった言葉ほど、人生を静かに変えていく種になることを。