第31話「大人の再会」
初夏の風が、山あいをゆっくり吹き抜けていた。
〈ひとがま〉の前に咲く野草が、柔らかく揺れた。
その日、三人は偶然ではなく――『意識して』〈ひとがま〉に向かっていた。
ゆのみんは、家庭からの帰り道。
つぼるんは、勤務を終えた足で。
つぎっぴーは、一時帰国のタイミングで。
みんな、胸のどこかでそわそわしていた。
昔みたいに話せるかな……
変わっちゃった姿、どう思われるかな……
何から話せばいいんだろう……
三つの影が山道に伸び、やがて土間へと重なっていった。
◆再会の一瞬、空気が変わった
陶房の戸をそっと開けると――すでにゆのみんが座っていた。
「……あっ、つぼるん」
ゆのみんが湯気をふわりと広げた。
続いて、つぎっぴーが息を弾ませて入ってきた。
「ふたりとも! 久しぶりだね!」
三人は目を合わせた。
ああ……会えた。
その瞬間、胸の奥にひとすじの温度が流れた。
しかしそれと同時に、言葉がうまく出てこない沈黙が訪れた。
昔はすぐに話せたのに。
何を話せばいいか、わからない。
その沈黙が、かすかに三人をくすぐっていた。
◆少しぎこちない『近況報告』
最初に口を開いたのはつぎっぴーだった。
「えっと……ぼく、海外でさ……市場で働いて、現地の人にお茶教えたりして……けがもしたけど……まぁ、なんとかやってる!」
勢いのある声。
けれど、その奥に『疲れ』が混ざっていた。
ゆのみんは、柔らかな声で言った。
「すごいね。わたしは……うん、家庭で、子どもと過ごす時間が増えて……毎日あたたかいんだけど、でも……疲れるときもある」
湯気が一瞬だけ揺れた。
つぼるんも続けた。
「ぼくは……公共施設で働いてて。いろいろな相談が来るんだ。正直、責任が重くて……明日が怖くなる日もある」
三人は、自分の頑張りを『説明する』ように話した。
それは、どこかぎこちなかった。
相手にちゃんと伝わるかな……
重すぎないかな……
軽く聞こえないだろうか……
昔は、もっと素直だったのに。
◆ふとした瞬間に、昔の温度が戻る
しばらく話してから、つぎっぴーが笑って言った。
「ねぇ……覚えてる? あの時の『土間のかくれんぼ』!」
ゆのみんが目を丸くした。
「えっ、それ……わたしが最初に陶じいに見つかったやつ?」
つぼるんも思わず吹き出した。
「ゆのみん、湯気が出てて隠れられてなかった笑」
三人が笑った瞬間――土間の空気がふっと懐かしい匂いになった。
変わってしまった部分の奥に、変わっていない火が確かにあった。
◆会ってみてわかったこと
ゆのみんは思った。
……やっぱり、ふたりに会いたかったんだ。
つぎっぴーは思った。
ぼく、ひとりで走ってるつもりだったけど……本当は、ずっとふたりに見ていてほしかった。
つぼるんは思った。
支える役ばかりで苦しかったけど……ふたりの前では、本音を言ってもいいのかもしれない。
沈黙も、ぎこちなさも、全部を含めて――この三人で再会できてよかったと心から思えた。
◆陶じいが火の前で静かに言う
「よう帰ってきた」
陶じいは火箸を握りながら言った。
「焦らんでええ。大人の再会はな、ぎこちのうて当然じゃ」
三人は静かに頷いた。
陶じいは続けた。
「けど……その『ぎこちなさ』を受け入れたとき、ほんまの意味で、またつながり直せるんじゃ」
火がぱちん、と弾けた。
◆再会は完璧じゃなくていい
その夜、三人は土間でゆっくり話し、時に沈黙し、時に笑い合った。
完全には戻れない。
それは痛みではなく、小さな成長の印だった。
そして三人は、胸のどこかでそっと決めていた。
――また会おう。何度でも。何歳になっても。
初夏の風が、ゆっくり三人の影を揺らした。