第81話「春の縁側、三つの志」
ひとがまの縁側に、午後の柔らかな光が差し込んでいた。
ゆのみんの湯気は心地よく揺れ、つぼるんは深い影のように静かに佇んでいた。
それはまるで――長い坂を登り切った者だけに見える絶景をみたときのような気持ちだった。
◆1.ゆのみんの『もう一度、人をあたためたい』
ゆのみんは縁側から外を眺め、ぽつりとこぼした。
「……わたしね、思ったんだ」
「うん?」
「もう一度……『人とお茶を飲む場所』を作りたいって」
「……教室を?」
「うん。でも『教室』って名前じゃなくて……あったかい空気が流れる場所。お茶と土と、少しの会話があればいい」
ゆのみんの湯気が、春風と混ざった。
「家族が壊れそうな人、大事な人をなくした人、なんとなく寂しい人……そういう人たちが、ふっと息をつける『湯気のひろば』を作りたい」
「情が熟すと、場所を作りたくなる。ゆのみん、その境地にいるんだね」
ゆのみんの湯気は、ほんの少し涙の匂いがした。
◆2.つぼるんの『知を、形に残す』
つぼるんは、膝に置いた『問いノート』をゆっくり閉じた。
「……私も、一つ思ったことがある」
「なになに……?」
「私はこれから……『書く』ことに挑戦してみたい」
「本? いいじゃない!」
「うん。問いの力、人の学びの仕組み、人が自分の心とどう向き合うか……私の人生を通して見た知を、形として残したい」
「本ができたら……きっと、たくさんの人が救われるよ」
つぼるんは小さく笑った。
「そして……小さな『学び舎』も作りたい。老いた私にも、まだ灯せる灯りがある」
◆3.つぎっぴーの『もう一度』
そのころ、つぎっぴーは、マルタさんにもらった『海の砂』の瓶をぎゅっと握っていた。
「もうすぐ、マルタさんと出会った場所に……到着かな? でも、身体がギシギシいって、正直、いつ欠けるか分かんない」
つぎっぴーは自分の金線を優しく撫でながら、静かに独り言をこぼした。
「でもね……病気で苦しんでいる人や、自分の欠けを恥じている人に……いまの『ぼく』を見せてあげたいって思うんだ」
つぎっぴーの金線は、細い中でも、どこか力強く光った。
「……もう一度、海を渡って、マルタさんが残した光を……つないでいかないと……!」
◆4.志が揃ったとき、名のない器が光る
三人がそれぞれの未来を紡ぎだすと――名のない器が、ふわり、と光を放った。
「あっ……!」
つぼるんはゆっくり頷いた。
「『志が生まれた音』だね」
器の内部に、三つの灯りが重なったような暖色の光が宿っていた。
・ゆのみんの『情の場づくり』
・つぼるんの『知の継承』
・つぎっぴーの『希望の旅』
それは、老いという静けさの中でふたたび芽吹いた『それぞれの人生の使命』と言えるものだった。
夜風が優しく吹き込んだとき、三つの志は、確かにそこに立ち上がっていた。