第3話「ことばの芽」
朝の光が、窯の屋根をすり抜けて差し込んでいた。
ゆのみんがふわりと湯気を立て、つぎっぴーがその上で跳ねる。
そして、その隣で、つぼるんはじっと煙を見つめていた。
「また考えごと?」とゆのみんが笑う。
「うん……この煙、空に消えてるけど、どこへ行くのかなって」
「そんなの、風にまかせればいいじゃん!」
つぎっぴーが明るく言うと、つぼるんは少しだけ首をかしげた。
「風にまかせるって、どういうことだろう。『まかせる』って、じぶんの意思をなくすこと? それとも信じること?」
その声には、まだ生まれたての震えが混じっていた。
ゆのみんは湯気を少し濃くして、そっと答える。
「わたしはね、『あたたかい風』を信じたいな」
「ぼくは、『とりあえずやってみる風』が好き!」と、つぎっぴーが胸を張る。
三人の声が重なり、煙の中にゆらめいて消えていった。
そのときだった。煙の奥から、陶じいの声が聞こえた。
「ことばってのはな、火といっしょじゃ。ひとつの声が、土の奥を照らすこともあれば、焼きすぎて割れることもあるんじゃ」
つぼるんは、その言葉を胸に刻むように聞いた。
「火種はええ。風が吹けば燃える。だが、火をつける前に、自分の『土』を知る必要がある。どんな器になりたいか、それがことばの根っこになるんじゃ」
その言葉を聞いたつぼるんは、黙って煙を見上げた。
煙は空に溶け、やがて小さな光粒になって消える。
「……この気持ちを言葉で表すことができる。でも、それって、ほんとうに自分の言葉かな?」
そう呟いたとき、つぼるんの体の内側で、ぽつり、と小さな音がした。
それは、『ことばの芽』が、初めて土を割って顔を出した音だった。
ゆのみんは微笑み、「うーん、つぼるんの中、なんか光ってるよ」
「えっ、ほんと? ぼくも見たい!」とつぎっぴー。
三人の影が、窯の壁に揺れる。
その影の真ん中で、つぼるんの中に小さな光が灯った。
それが、これから長い年月をかけて、『問い』という樹になることを、誰もまだ知らなかった。