第14話「すれ違う足音」
火の落ちた朝の陶房は、どこか冷えていた。
ゆのみんは、いつもより湯気が薄いまま、外の光をただぼんやりと眺めていた。
つぎっぴーの姿が見えない。
つぼるんも、いつもの場所にいない。
昨日の夕暮れの空気が、まだ胸に残っていた。
(どうしてあんな言い方になったんだろう……)
つぼるんは、裏山の影にひとり座っていた。
手のひらで土をころがしながら、何度も同じ問いを反芻していた。
(ぼく、つぎっぴーを……焦がした?)
そんなつぼるんの近くを、つぎっぴーはこっそり通り過ぎていった。
いつもなら「おはよ〜!」と跳ねてくるのに、今日は足取りが静かだ。
そして、つぎっぴーの胸の中でも、透明な痛みがまだ燻っていた。
(なんで、あんなふうに言うの……)
(ぼくだって……がんばってるのに……)
丘の方へ走ろうとして、でも途中で足を止めた。
(今日は……走りたくない……)
ゆのみんは陶房の前で、ぽつんと座っていた。
湯気が弱く、風にすぐ消されてしまう。
(ふたりとも……今日も、別々なんだ……)
いつもなら、つぎっぴーが「いっしょに行こうよ!」と誘う。
いつもなら、つぼるんが「そっちは危ないから迂回しよう」と気を配る。
けれど今日は、誰も、誰のところへも向かわなかった。
三人の足音は、『すれ違って遠ざかる音』に変わっていった。
昼すぎ、陶じいが土の袋を抱えながら言った。
「今日は静かじゃのう」
ゆのみんが小さく答える。
「……うん。三人なのに、三人じゃないみたい」
陶じいはゆっくり腰を下ろした。
遠くの道を眺めた。
「土はな、乾くとひびが入る。だが……そのひびのおかげで、水も火も、奥にしみ込むんじゃ」
ゆのみんは、はっと息を呑んだ。
「……しみ込む……?」
「うむ。すれ違いも、すぐに埋める必要はない。その間に、何かが奥へ入っていく」
ゆのみんは胸に手を当ててみた。
朝より少しだけ、湯気がたまりやすくなっていた。
そのころ、裏山を歩いていたつぼるんは、道の先に小さな金色の光を見つけた。
……つぎっぴーの金の線。
つぼるんは声をかけようとして、でも、途中で飲み込んだ。
今は……話さないほうがいいかもしれない。
つぎっぴーも、つぼるんの姿に気づいていた。
でも、顔を上げる勇気はなかった。
ふたりは背中を向けたまま、数歩だけ、足音を揃えて歩いた。
そのリズムは、ほんのわずか――ほんとうにわずかに、三人が幼かった頃の歩幅に似ていた。
夕暮れ、陶房に戻ると、ゆのみんが静かに湯気を立てていた。
つぎっぴーが遠くから座った。
つぼるんも少し離れた場所に腰を下ろした。
誰も言葉を発しない。
でも、不思議と、『ひとり』ではなかった。
ゆのみんが気づいた。
あ……三人の湯気が、少しだけ混ざってる……
風に消えるほど薄い、それでも確かにそこにある『つながりの粒』。
それはまだ、『ひび』のままだけど――どこか、あたたかい気がした。