【相談室】権限委譲をしたら「丸投げだ」と言われました。どうしたらいいですか?

相談室

Q. 権限委譲をしたら「丸投げだ」と言われました。どうしたらいいですか?
部下の成長を促すため、これまで自分が担っていた業務を部下に任せることにしました。「方向性も含めて自由に決めてよい。全部任せるよ」と伝えたのですが、部下から「それでは丸投げと変わらないじゃないですか」と不満を言われてしまいました。育成のつもりだったのですが、どのように任せればよかったのでしょうか…。

A.
「全部任せる」という言葉は、信頼のつもりでも、部下には「丸投げ」に聞こえてしまうことがあります。
権限委譲と丸投げを分けるポイントは、次の3点です。
① 任せる目的と課題を整理して伝える
② 権限やリソースを渡し、周囲の環境にも働きかける
③ 結果責任は上司が引き受ける

育成のためにあえて未整理の課題を任せる場合は、これに加えて、上司自身が仮説を持つこと、外部からの圧力を食い止めること、途中で関わり方を調整することが必要です。


解説

1.「全部任せる」は、部下には「丸投げ」に聞こえる

部下の成長を考えて、これまで自分が担ってきた仕事を任せようとした相談者の姿勢は、とても大切なものです。

しかし、「全部任せるよ」と言われた部下は、どう感じるでしょうか。

上司としては信頼の表れのつもりでも、部下の側からすると、次のように受け取られることがあります。

  • 上司は忙しくて、もうこの仕事に関わるつもりがないのかもしれない
  • 何を目指せばいいのか、これから自分で一から考えなければならない
  • うまくいかなかったら、全部自分の責任になるのかもしれない

同じように仕事を任せたとしても、部下が「自分のことを信じて任せてもらえた」と感じるか、「丸投げされた」と感じるかは、上司がどこまで準備をし、任せた後にどう関わるかによって大きく変わります。

その結果を左右するうえで気を付けておきたい上司の関わり方のポイントが、次の三つです。


① 任せる目的と課題を整理して伝える

仕事を任された部下が最初に戸惑うのは、「結局、何をすればいいんだろう」という点です。

権限委譲では、上司が「何のために任せるのか」「何が課題なのか」「何を解決してほしいのか」を整理し、一段具体化したうえで部下に渡すことが大切です。

たとえば、クライアントの採用支援プロジェクトを任せる場面で、次の二つの伝え方を比べてみてください。

  • 「今回のプロジェクトは会社としても重要な位置づけで、クライアントからの期待も大きい。どうにか成功させてほしい」
  • 「クライアントがいま一番困っているのは、内定辞退率が上がっていることだ。その原因を調べて、対策を考えてほしい」

前者からは、プロジェクトの重要さは伝わっても、何に取り組めばよいのかはわかりません。

後者であれば課題が明確で、取り組むべきことを具体的にイメージできます。

上層部や顧客からの要望は、そのままでは思いつきや漠然とした不満として表れていることも少なくありません。

それを「本当は何を求めているのか」という意図に翻訳してから渡すのが、適切な権限委譲を行う際の上司の役割です。

関係者の要望を整理しないまま部下に横流しするのは、権限委譲ではなく単なる丸投げです。

また、今回、相談者の方は「方向性も含めて自由に決めてよい」と伝えているとのことですが、「方向性」という言葉には、次の二つが含まれるため注意が必要です。

  • 目指す目的やゴール(何のために、どこを目指すのか)
  • そこへ向かうやり方(どのように進めるのか)

部下に任せるのは、主に「やり方」の部分です。

目的やゴールまで白紙のまま渡してしまうと、部下は何を目指せばよいのかわからず、丸投げと受け取られてしまいます。

まずは目的やゴールを上司が明確に示し、なぜそこを目指すことが大切なのかを、部下にも十分に納得してもらう必要があります。

そのうえで、そこにどうたどり着くかを部下に考えてもらうのが、権限委譲の基本的な形となります。


② 権限やリソースを渡し、周囲に働きかけて環境を整える

目指すところがわかっても、次に部下が困るのは「任されたのに、自分では何も決められない」という状況です。

仕事を任せるときには、その仕事を進めるために必要な権限や人手、予算などもあわせて渡す必要があります。

たとえば、同じプロジェクトで若手メンバーのとりまとめも任せるのであれば、「メンバーへの作業の割り振りや締め切りの調整は、自分の判断で決めてよい」と、あらかじめ伝えておきます。

反対に、「全部任せる」と言いながら、作業の割り振り一つひとつに上司の承認が必要という状態では、部下は思うように動けません。

求める役割は大きいのに、権限は作業者のままという状態は、単なる丸投げと同じです。

また、権限を渡すだけでなく、上司が先回りして周囲に働きかけ、部下が動きやすい環境を整えておくことも大切です。

たとえば、次のような動きが必要です。

  • 関係部署に「この件は今後○○さんが担当するので、協力をお願いしたい」と事前に話を通しておく
  • クライアントに「今後の窓口は○○になります。この範囲は○○の判断で進めます」と伝えておく
  • プロジェクトに加わる若手メンバーに「この件は○○さんが主担当なので、基本的には○○さんに相談してほしい」と伝えておく

こうした下準備があるだけで、部下は社内外で話を進めやすくなります。

一方で、「何か困ったことがあれば相談してください」と声をかけるだけで終わらせる上司も多く見られますが、これにも注意が必要です。

一見親切に見えますが、これでは、困りごとに気づいて声を上げる負担を、部下に預けたままになりがちです。

このとき、部下からすると、「何かあるまで上司は動いてくれない」「上司はあまり協力的でない」ように映ります。

上司が相談を待つだけの「御用聞き」になってしまうと、任された部下は一人で周囲と向き合うことになり、人知れず孤独を抱えてモチベーションも下がっていきます。


③ 結果責任は上司が引き受ける

部下がもう一つ不安に感じるのが、「失敗したら、自分のせいにされるのではないか」という点です。

仕事の責任には、大きく分けて次の二つがあります。

  • 遂行責任:任された仕事を、最後までやり遂げる責任
  • 結果責任:うまくいかなかったときに、その結果を引き受ける責任

権限委譲された部下が負うのは遂行責任であり、結果責任は上司が負う、という線引きが重要です。

「全部任せる」という言葉は、結果責任まで部下に渡すように聞こえてしまう恐れがあります。

実際に、成果が上がらなかったときに上層部への説明を部下にさせたり、「君に任せたことだから」と突き放したりすれば、部下は結果責任まで背負わされたと感じてしまいます。

特に避けたいのが、次の二つの態度です。

  • 取り組みの最中に、「次の契約が取れなかったら、我々の責任だからね」と、連帯責任をにおわせてプレッシャーをかける
  • 失敗した後になって、「だから言ったのに」「やっぱりうまくいかなかったね」と、外から評価する評論家のような態度をとる

上司が果たすべきなのは、取り組みの最中にはうまくいくための手立てを部下と一緒に考え、仮に失敗したときには、顧客や上層部に対して「私の判断で任せたことです」と自ら説明し、頭を下げることです。

そのうえで、失敗をしたとしても、そこから学び、次にどう改善するかを部下と一緒に考えることが必要です。


以上、ここまで説明した三つのポイントを振り返ると、「全部任せるよ」という一言が、なぜ丸投げと受け取られたのかが理解できるのではないでしょうか。

目的やゴールが示されず、どこまで自分で決めてよいかもわからず、失敗したときに誰が責任を持つのかもはっきりしない。

そうなれば、部下にとっては、「やるべきことと責任だけが増えた」状態に見えてしまうかもしれません。

したがって、上司として、部下に権限委譲をする際には、あらかじめ次の点を自分自身に問いかけてみることをお勧めします。

  • 何のために、何を解決してほしいのかを、一言で説明できるか
  • 部下が自分で判断してよい範囲を、具体的に伝えたか
  • 関係部署やクライアント、プロジェクトメンバーに、上司から話を通して環境を整えたか
  • 「最終的な責任は自分が持つ」と、言葉にして伝えたか


2.あえて「未整理の課題」を任せるときも、上司の準備が欠かせない

ここまでは、上司が課題を整理したうえで任せる場合の話でしたが、部下の成長のために、あえて課題を整理しないまま任せたい場合はどうでしょうか。

難易度の高い仕事をあえて任せて、いわゆる「ストレッチゾーン」(少し背伸びをすれば届く、成長しやすい領域)の中で力をつけてもらうことも、育成の観点では必要です。

この場合も、目的やゴールは上司が示したうえで、「何が課題なのか」「どう解決すればよいのか」を見つけ出すところから部下に考えてもらう形になります。

先ほどの例でいえば、「クライアントの内定辞退者を減らしたい」という目的だけを伝え、内定辞退率の上昇の真因として考えられる課題は部下自身に見つけてもらう、という任せ方です。

こうした任せ方は、人材育成において、器を広げるうえでも非常に重要です。

ただ、同じ課題を渡しても、部下がストレッチゾーンの中で成長できるか、「パニックゾーン」(難しすぎて、不安や混乱から力を発揮できない領域)に入って疲弊し、動けなくなってしまうかは、上司の関わり方によって分かれることになります。

そのため、上司の側には次の三つの準備が欠かせません。


(1) 上司自身が課題に対する仮説を持っておく

仮説とは、「おそらくこういうことではないか」という上司なりの見立てのことです。

正解である必要はありませんが、上司なりの考えを持ったうえで、あえて部下に考えさせることが大切です。

先ほどの例でいえば、上司が「課題は内定辞退率の上昇で、内定後のフォローが手薄になっていることが原因ではないか」といった見立てを持っていれば、部下が行き詰まったときに「こういう見方もあるのでは」と一緒に考えることができます。

ただし、仮説は部下と議論し、部下の視点を広げるために使うものです。

途中では黙って見ているだけで、失敗した後に「自分はこうなると思っていた」と持ち出すのでは、先述した評論家の態度と変わりません。

また、上司自身も何が真因なのかわからないまま課題を渡すのは、育成ではなく、上司の抱えている混乱を部下に受け渡しているにすぎません。

すると、部下側はそうした上司の浅薄な態度を敏感に感じ取り、結局は「丸投げだ」と受け止めてしまうことになりかねません。


(2) 外部からの圧力を食い止める

整理されていない課題から方向性を見つけ出すには、落ち着いて考える時間と余裕が必要です。

そのため上司には、顧客や上層部との間に立って時間を確保し、部下がじっくりと考えられる環境を整える役割が求められます。

たとえば、上層部から「来月までに結果を出せ」と言われたとしても、上司が「まずは原因の分析に1か月ください」と交渉し、部下が腰を据えて取り組めるような環境を構築します。

反対に、「結果が出なければこのプロジェクトは打ち切りになる」といった圧力をそのまま部下に伝えてしまうと、部下は焦りから余裕を失い、目先の結果を出すことだけを優先するようになります。

これでは、部下は早急な結論を迫られ、せっかく未整理の課題を任せても、着実な育成にはつながりません。


(3) 途中で関わり方を調整する

ストレッチは、最初に任せたら終わりではありません。

部下の様子を見ながら、関わり方を調整することも上司の重要な役割です。

たとえば、週に一度、15分程度でも進み具合を聞く場を決めておけば、部下は行き詰まりを早めに打ち明けやすくなります。

そのうえで、次のような様子が見られたら、上司が仮説を示したり、課題を一段具体化して渡し直したりします。

  • 数週間たっても、方向性が見えてこない
  • 同じところで手が止まっている
  • 報告の内容が薄くなったり、報告自体が途切れがちになったりしている

任せる範囲を途中で狭めたり調整したりすることは、失敗ではありません。

部下にとって「頑張れば届く」難しさ(ストレッチゾーン)に調整し直すことが、適切な育成につなげるために必要な上司の大切な役割です。


3.「丸投げだ」と言われた後の立て直しが重要

では、相談者のように、すでに「丸投げだ」と言われてしまった場合はどうすればよいでしょうか。

まず大切なのは、説明や説得から入らないことです。

「育成のつもりだった」と伝えたくなるかもしれませんが、先に部下の話を聞く姿勢が必要です。

たとえば、次のように尋ねてみてください。

「任せ方で、足りなかったところを教えてほしい」
「今、一番不安に感じているのはどこ?」

話を聞いてみると、多くの場合、1で挙げた三つのポイントのどこかが欠けていたことがわかるはずです。

  • 「何を目指せばいいのかわからない」→ ①目的と課題が伝わっていない
  • 「自分では決められないことが多すぎる」→ ②権限やリソースが足りない
  • 「失敗したら自分のせいにされそう」→ ③責任の所在が見えていない

足りなかった部分がわかったら、目的とゴール、任せる範囲、責任の所在を改めて言葉にして伝え直します。

たとえば、次のような伝え方です。

「全部任せると言ったのは、言葉足らずなところがあって、本当に申し訳なかった。目指してほしいのは内定辞退率を下げることで、そのための課題の深堀りや解決策の提案は任せたい。成果物のクオリティは、前回の報告書を参考にしてほしい。予算は○○万円の範囲なら自分で決めてよいし、若手メンバーの時間は週に○時間までなら使ってよいという了承を得ている。結果の責任は私が持つので、安心して挑戦してほしい」

こう伝え直せば、同じ仕事を任せても、部下の受け止め方は大きく変わります。

「丸投げだ」という言葉は、上司の任せ方に足りない部分があることを教えてくれる重要なサインでもあるのです。


4.労務管理上の留意点

任せ方によっては、パワハラと受け取られるおそれもあります。

厚生労働省のパワハラ指針では、必要な教育を行わないまま、到底対応できないレベルの業務を課し、達成できなかったことを厳しく叱責することは「過大な要求」の例とされています。

一方で、部下を育てるために、今より少し高いレベルの業務を任せることは、パワハラに該当しないと考えられる例として挙げられています。

つまり、難しい仕事を任せること自体が問題なのではありません。

必要な支援をせずに、能力や経験に見合わない重い役割を任せ、責任まで負わせたうえで、できなかったことを必要以上に責めることが問題になるのです。

また、新しい仕事を任せた結果、業務量が増えて長時間労働になっていないかにも注意が必要です。

任せた後は、勤怠記録で残業時間の推移を確認したり、面談で負担感を聞いたりして、無理が生じていないかを逐一確認するようにしましょう。

心理的な負担が長く続くと、心身の不調につながることもあり、この点には特に注意が必要です。


まとめ:実務上のポイント

▼任せる前

  • 何のために、何を解決してほしいのかを整理し、上司が一言で説明できるようにしておく
  • 課題や解決策について、自分なりの見立て(仮説)を持っておく
  • 新しい仕事を任せる分、これまでの仕事の量を減らす必要がないかを検討し、調整する

▼任せるとき

  • 「全部任せる」とひとまとめにせず、次の点を言葉にして伝える
    • 目的とゴール、解決してほしい課題
    • 期待する成果イメージと、その期限
    • やり方のうち、部下が自分で判断してよい範囲
    • 使える権限や人手、予算
    • 途中経過を報告してほしいタイミング
  • 「最終的な責任は自分が持つ」とはっきり伝え、連帯責任をにおわせる言い方は避ける
  • 関係部署やクライアント、プロジェクトメンバーには、上司から先に話を通しておく

▼任せている間

  • 「何かあれば言って」で終わらせず、進み具合を聞く場を定期的に設ける
  • 顧客や上層部からの圧力は上司のところで受け止め、部下には判断に必要な情報だけを整理して伝える
  • 行き詰まっている様子があれば、仮説を示したり、課題を具体化して渡し直したりする
  • 業務量や労働時間に無理が出ていないかを都度確かめるようにする

▼うまくいかなかったとき

  • 評論するのではなく、上司が説明と謝罪の矢面に立つ
  • そのうえで、次にどうするかを部下と一緒に考える

▼「丸投げだ」と言われたら

  • 言い訳や説明の前に、何が足りないと感じたのかを具体的に聞く
  • 自らの至らなかった点を反省し、任せ方を見直して、もう一度部下と真摯に向き合う



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