Q. 部下が自律的に動きません。どうしたらいいですか?
課長として5名の部下をまとめています。彼らは指示したことをこなしますが、自分から課題を見つけて提案したり、判断して動いたりすることがほとんどありません。「もっと主体的に動いてほしい」と伝えても変化がありません。うちの組織は自律的に動ける人だけを求めているため、「君たちのためを思って言うけど、今後、自分から動かないなら仕事をアサインしないよ」と伝えました。しかし、一向に改善は見られません。今の時代、自律的に動けない人は、どの企業でもやっていけないと思います。どうすれば、彼らは自律的に動いてくれるのでしょうか?
A.
自律は、求めれば求めるほど遠ざかってしまう性質があります。
部下が自分から動けるようになるためのポイントは、次の3点です。
① まずは指示した仕事をやり遂げていることを認める
② 部下が自律したくなる条件を整える
③ 上司自身の余裕のなさに気づき、部下の本音を聴く
なお、「動かないなら仕事をアサインしない」と伝えたり、実際に仕事を外したりすると、部下を萎縮させるうえ、パワハラと受け取られるおそれもあります。
解説
1.「自律してほしい」と求めるほど、自律から遠ざかる
「自律」とは、指示を待たずに、自分で考えて判断し、主体的に動くことを意味します。
自律的に動ける力が今の時代に求められているという相談者の方の考えは、そのとおりだと思います。
ただ、他人に自律的に動いてもらうのは、想像以上の難しさがあります。
なぜなら、人から強いられて動くことは、そもそも自律とはいえないからです。
部下の将来を思って伝えた言葉でも、それが強制として受け取られれば、部下はかえって自律から遠ざかってしまいます(これを「自律のパラドックス」ともいいます)。
「自分から動かないなら仕事をアサインしない」と言われた部下は、どう感じるでしょうか。
「勝手に動いて失敗したら、それも外される理由になるかもしれない」と不安になり、指示どおりに動くのが一番安全だと考えるようになるかもしれません。
仮に自分から動いたとしても、それは仕事を外されないための行動であり、自分の意思で動いているわけではありませんので、真の意味での「自律」とは言えないでしょう。
次のような状態も、部下が自分から動こうとする気持ちを弱めてしまいます。
- 上司にとって望ましい「自律の形」しか認められない
- 「任せる」と言いながら、結局は細かく管理される
- 失敗したときに責任を問われ、フォローしてもらえない
- 「自律」という名目で丸投げされ、成功に向けたプレッシャーばかりをかけられる
また、相談者のように自律の大切さを実感している上司ほど、自律的に動くことを当たり前に考えやすい傾向が挙げられます。
自分と同じペースや行動量を基準にすると、部下の仕事の多くが非自律的で、「足りないもの」に見えてしまいがちです。
2.部下が自律的に動けるようになる三つのポイント
部下が自分から動けるようになるには、「自律しなさい」と伝えるよりも、部下が「自ら動いてみよう」と思える関わり方をする必要があります。
ポイントは次の三つです。
① まずは指示した仕事をやり遂げていることを認める
相談者の部下は、指示されたことはきちんとこなしているとのこと。
そもそも任された役目を責任をもってやり遂げることは、組織を支える大切な働きです。
また、自律の形は一つではありません。
新しい提案をすることだけでなく、任された仕事の進め方を工夫したり、品質にこだわったりすることも、自分で考えて動いている姿です。
このように考えてみると、ある場面では、部下は自律的に動いている姿が見えてくるかもしれません。
そのうえで、たとえば、次のように具体的に伝えると、部下は「自分の仕事をきちんと見てもらえている」と感じます。
「期限どおりに資料を仕上げてくれて助かったよ」
「質問が出そうな点を先回りして補足してくれていたのがよかった」
実際、長く勤めている部下ほど、できて当たり前と見なされ、こうした声かけが省略されがちな状況が散見されます。
しかし、日々の仕事を認める言葉をおろそかにしないことが大切です。
日々の声かけによる承認されている実感が、信頼関係の土台となり、「次は自分から提案してみよう」と一歩踏み出すきっかけにつながるのです。
② 部下が自律したくなる条件を整える
ここで、相談者ご自身が自律的に動けたときのことを思い出してみてください。
多くの場合、次のようなときではないでしょうか。
- 人とのつながりを感じたとき
- 例:この仲間やチームのためにがんばりたいと思えた。
憧れの人のようになりたいと思えた。
大変なときに助けてもらった。
- 例:この仲間やチームのためにがんばりたいと思えた。
- 認められ、任されたとき
- 例:自分の存在を心から尊重・肯定してもらえた。
大きな責任や権限を与えられ、自分で決めることができた。
- 例:自分の存在を心から尊重・肯定してもらえた。
- 意味や面白さを感じたとき
- 例:興味や好奇心が満たされた。
自分の成長につながると思えた。
- 例:興味や好奇心が満たされた。
これらの一つひとつが、上司にできる働きかけのヒントになります。
上の三つに対応させると、たとえば次のような関わり方が大切です。
- 信頼関係を築き、相手を思いやる。
- 部下から「この人のようになりたい」と思われる存在になる。
- 部下を一人の人として尊重し、信頼して任せる。
- 一人ひとりの興味・関心や成長に目を向け、期待を伝える。
こうした働きかけを実践することは、上司としての器を広げることにつながります。
どの条件がどう響くかは人によって違うため、全員を同じやり方で動かすことはできません。
一律に管理をせず、一人ひとりを見て関わりを変えていくことが大切です。
③ 上司自身の余裕のなさに気づき、部下の本音を聴く
(1)自分の状態に気づく
相談者もまた、上司としての成果を求められ、仕事をどうにかしなければならないというプレッシャーを抱えているのではないでしょうか。
「自律的に動ける人だけを求める」という組織方針があるとき、たいていの場合、その背後には上司側の重圧や焦りが隠れています。
そして余裕がなくなると、人は「よく分からない状態」に耐えられなくなり、相手の状態や結論を早く確定させたくなります。
それが部下との関わりに表れると、次のような状況に陥りがちです。
- 相手の内面を決めつける:「部下が自分から動かないのは、やる気がないからだ」と、確かめないまま決めつけてしまいがちです。
ところが実際には、判断の基準が分からない、失敗が怖い、業務量に余裕がないなど、部下が動かない背景にはさまざまな事情があり得ます。
しかし、「やる気がない」と決めつけられると、部下は身構え、なおさら本当の事情を話しにくくなってしまいます。 - 相手の答えを誘導する:内面を決めつけたまま結論を先につくり、部下がその方向を選ぶように仕向けてしまう方法を上司は取りがちです。
たとえば、次のような言葉を投げかけることがあります。- 「ほかにも前向きな人はたくさんいるから。私も無理に押し付けたくもないし、やりたくないならやらなくてもいいよ」
しかし実際には、上司の望む答えを半強制的に選ばせています。
部下はその意図を敏感に感じ取り、以降、自分で考えるよりも、上司の顔色をうかがって動くようになります。
相談者が伝えた「君たちのためを思って言うけど」という言葉も、意図とは別に、部下にはこうした誘導として受け取られてしまっている可能性があります。
こうした決めつけや誘導は、上司側のプレッシャーや不安から生まれるものです。
だからこそ、焦って部下に関わる前に、まず自分自身に問いかけてみることが必要です。
- 今、自分はどんなプレッシャーを抱えているか
- 部下について、確かめないまま決めつけていることはないか
- 自分が望む結論に、部下を導こうとしていないか
- それによって、部下の本音を押さえつけていないか
- 部下の答えが自分の期待と違っても、それを受け止める準備ができているか
(2)部下の本音を順に聴く
上司が自分自身の状態に気づけたら、次は部下の話を聴く番です。
上司がすぐに答えを示す前に、次の順番で聴いていくと、部下は自分の言葉で考えを整理しやすくなります。
・ステップ1:懸念を聴く
――「何か心配なことはある?」「やりにくいと感じていることはない?」
懸念を抱えたままでは、やりたいことを聞かれても、部下の本音は思うように出てきません。
まず懸念を受け止めることで、部下は「話しても大丈夫だ」と感じられます。
このとき上司にとっても、「やる気がないのでは」という思い込みを確かめ直す機会になります。
ただし、ここで気をつけたいことがあります。
「気になることがあれば、何でも言ってね」と言いながら、実際に上司側の問題点を指摘されると、上司が反論したり、不機嫌になったりしてしまうケースも少なくありません。
言葉では「何でも言って」と歓迎していても、態度で拒めば、部下は「本当のことは言わないほうがいい」と受け取ります。
そうなると、次に「心配なことはある?」と聞かれても、当たり障りのない答えしか返さなくなってしまいます。
耳の痛い指摘ほど、まずは「言ってくれてありがとう」と受け止めることが大切です。
こうした受け止めの積み重ねがなければ、次第に部下は本音を話さなくなります。
耳の痛い言葉を受け止められるかどうかは、上司にどれだけ余裕があるかに依存しますので、(1)で自分の状態を振り返っておくことが、まずは大切です。
・ステップ2:やりたいことを聴く
――「どんなことをやってみたい?」「この仕事が、どうなったらいいと思う?」
部下自身の「やってみたい」が言葉になると、仕事は上司から与えられたものではなく、自分のものになっていきます。
すぐに答えが出なくても構いません。考える時間を渡すことも、関わり方の一つです。
最初は「特にありません」という答えが返ってくることもあるでしょう。
しかし、それは、意欲がないからとは限りません。
これまで話を聞かれなかったことで、「言っても変わらない」と感じていたりする場合もあります。
そのようなときは、「今の仕事で、少し変えてみたいところはある?」「どんなときにやりがいを感じる?」と、答えやすい小さな問いに変えてみることが必要です。
・ステップ3:進め方を一緒に考える
――「今、どこまで見えている?」「どこからが分からない?」
最後のステップとして、具体的な進め方の話に入ります。
部下に見えている範囲と見えていない範囲を一緒に確かめれば、上司がすべてを示さなくても、少しヒントを渡すだけで、部下は次に何をすればよいかを自分で考えられるようになります。
反対に、この順番を飛ばしていきなり「どうすればいいか」という手段や結論から話し始めると、部下は上司の頭の中にある正解を探すようになります。
結果として、先ほどの「誘導」に近い関わりになってしまうため、注意が必要です。
(3)小さく任せ、一緒に振り返る
部下の話を十分に聴けたら、部下が「やってみたい」と言ったことのなかから、小さな判断を一つ任せてみましょう。
最初から大きな仕事を任せる必要はありません。たとえば、「この会議資料の構成は、あなたに任せるよ」といった範囲で十分です。
任せるときは、次の3点を言葉にして伝えます。
- どこまでを任せるのか、自分で判断してよいのはどこまでか
- 困ったときは、いつでも相談してよいこと
- 最終責任は上司にあり、うまくいかなかったときは、上司がフォローすること
これを伝えないまま任せると、部下にとっては「丸投げ」と変わらずに映ってしまいます。
そして、終わったあとは、結果だけでなく、部下が自分で考えて判断したこと自体を認めましょう。
「ここは自分で判断してくれたんだね」「次はどうしてみたい?」と一緒に振り返るとよいでしょう。
こうして小さな成功体験が積み重なることで、部下は少しずつ自分から動けるようになっていきます。
3.労務管理上の留意点
冒頭の相談にもある「自分から動かないなら仕事をアサインしない」という伝え方には、労務管理上の注意が必要です。
職場のパワハラとは、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)において、次の3つをすべて満たすものをいいます。
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
- 労働者の就業環境を害するものであること
厚生労働省のパワハラ指針では、嫌がらせのために仕事を与えないことが「過小な要求」の例とされています。
一方で、労働者の能力に応じて、業務の内容や量を一定程度軽減することは、パワハラに該当しない例とされています。
つまり、仕事の割り振りを調整すること自体が問題なのではありません。
上司の期待に沿わないことへの不利益として仕事を外すことが問題になるのです。
また、実際には仕事を外さなくても、そうした発言を繰り返せば、部下に強い不安を与え、就業環境を害するものと受け止められるおそれがあります。
こうした発言は、部下一人ひとりだけでなく、チーム全体にも影響を与えます。
「この上司の期待に沿わなければ仕事を外される」と受け止められれば、チーム全体が萎縮し、ますます誰も自分から動かなくなってしまいます。
なお、部下の仕事ぶりに本当に課題があると感じる場合は、発言で圧力をかけるのではなく、評価面談や育成計画など、会社の制度に沿って対応することが必要です。
その際は、期待する行動を具体的に示し、そのための支援もあわせて検討します。
こうした手順を踏むことが、部下にとっても上司にとっても、公正で納得感のある進め方になります。
まとめ:実務上のポイント
▼日ごろの関わり
- 部下が任された仕事をやり遂げたときは、「助かった」「ここがよかった」と具体的に言葉にして伝える
- 部下から提案や挑戦があれば、結果にかかわらず、まずその行動を認める
- 上司自身が自律的に動けたときを思い出し、その条件を部下にも用意できているか振り返る
▼部下と話すとき
- まずは上司自身がどんなプレッシャーを抱えているか、決めつけや誘導をしていないかを振り返る
- すぐに答えを渡さず、次の順に聴く
- 懸念:「何か心配なことはある?」
- やりたいこと:「どんなことをやってみたい?」
- 進め方:「今、どこまで見えている?」「どこからが分からない?」
- 上司にとって耳の痛い指摘を部下から受けたときは、反論や説明の前に、まず「言ってくれてありがとう」と受け止める
- 部下から「特にありません」と返ってきたら、答えやすい小さな問いに変えてみる
▼任せるとき
- 部下がやってみたいことに関して、小さな判断から任せる
- その際は、次の点を伝える
- 任せる範囲と、自分で判断してよいこと
- 困ったときは相談してよいこと
- うまくいかなかったときは上司がフォローすること
- 任せたあとは、結果だけでなく、自分で判断したこと自体を認め、一緒に振り返る
▼迷ったとき
- 部下の仕事ぶりに課題があると感じたら、評価面談や育成計画など、会社の制度に沿って対応する
- 期待に沿わない部下への対応に迷ったら、一人で判断せず、人事部門や専門家(コーチなど)に相談する
………………………………………………………………………
本記事を読んでのご意見・ご感想がありましたら、ぜひお問合せフォームからお送りください。
また、パートナー協力の依頼やご相談についても随時お受けしていますので、お気軽に、ご連絡いただけますと幸いです。