現代社会では、VUCA(volatility:変動性、uncertainty:不確実性、complexity:複雑性、ambiguity:曖昧性)と呼ばれるように環境変化の不透明さが増しています。
今後、ますます直面することになるであろう急速な変化の下、しなやかに対処するためにも、「人としての器」が非常に重要な概念になると考えています。
以下では、マクロな視点からの5つのトピックを通じて、なぜ私たちが自らの器と向き合うことが重要なのかを考察していきます。
少子高齢化 – 年長者の成熟度向上が求められる
日本では、少子高齢化が進み、企業においても人手不足や技能継承などが問題となっています。
若い世代の人口が減少した結果、人生100年時代と呼ばれるように就業年齢の延長が求められており、年長者が社会のメインストリームとして影響力を持つことになります。
このとき、年長者が「人としての器」を大きくする努力を続けていれば、年齢を重ねたからこそ持つ経験や知恵を活かしながら、若い世代の価値観と融合した柔軟な発想で、新たな価値を創造していくことができます。
しかし、年長者が「人としての器」を大きくすることを怠った場合、柔軟な発想を持つことができず、若い世代の価値観をむやみに否定し、ときには新たな可能性をつぶしてしまうことになりかねません。
その結果、世代間の分断は強まり、知恵や技能がうまく伝承されないばかりか、企業においても人手不足が続けば、事業継続も悪化の一途をだどることになるかもしれません。
資源の分配 – 協力と共生がカギ
資源の分配問題には、「ヒト、モノ、カネ、情報」などに関する適切な配分が含まれます。
国レベルでも、企業・組織レベルでも、家庭レベルでも、限られた資源の分配の仕方が歪めば、対立や競争の激化につながります。
新自由主義というテーゼの下で、富むものは更に富み、貧しき者は更に貧しくなり、格差を生じさせている負の連鎖を断ち切ることが難しくなっています。
このとき、「人としての器」を大きくし、相手の立場を理解した上で格差解消に向けたアクションを取ることができれば持続可能な対応につながります。
それは決して大きな話ばかりではなく、例えば、身の回りの弱い立場にいる人たちの声を拾ったり、彼らとのコラボレーションを促進したりするなどの対応も当てはまります。
ここ数年の間で、予期せぬ大震災や疫病を経験した私たちは、ふとしたきっかけで自分が弱者や少数派になるかもしれないということを痛感したのではないでしょうか?
一定の資源を持つ人こそ率先して器を広げ、今までかき消されていた人たちの声に耳を傾け、手を差し伸べていく責務があるのかもしれません。
多様な価値観 – 制度疲労を乗り越える変革
企業において、従業員の多様な価値観が抑圧されることがあり、イノベーションの創出が阻害されるケースがあります。
裏を返せば、異質性や革新に向けた行動は、既得権益者にとっての安寧を揺るがしかねないとも言えます。
それゆえ、これまでの伝統的な慣行や既存の枠組みを固辞し、多様な意見やアイデアを取り入れることを躊躇する企業風土が根強く残っているかもしれません。
しかし、その状況を看過すれば、組織の柔軟性は次第に失われ、変化に対応できず、時代の要請に取り残されていく可能性があります。
安定したポジションにいる者が自分さえ逃げ切れればいいという発想を持つのではなく、「人としての器」を大きくすることで異なる視点や考え方を統合的に取り入れて、時代の要請に沿って多様な価値観を考慮した制度改革を進めていく必要があるのではないでしょうか?
テクノロジーの進歩 – 多様な能力が活かされる複雑な仕事
テクノロジーの進歩により、標準的なプロセスとして定義できる単純な仕事はAIやロボットに置き換えられつつあります。
次第に、人間が果たすべき役割は、複雑で柔軟な思考が求められるものへと変化していくでしょう。
その際、異なる能力を組み合わせて柔軟に対処するための土台である「人としての器」に向き合うことが大切です。
人としての器は、知識やスキル、テクニックといった標準化された「中身」ではなく、それらを支え、活用するための「土台(入れ物)」です。
器を広げることを怠れば、多様な能力を取り込むための余白を設けられなくなります。
その結果、獲得した知識やスキルをうまく統合できずに、人間らしさが求められるような複雑な仕事への対応も難しくなるかもしれません。
メンタル疲弊とキャリア不安 – ありのままの力を発揮できる働き方へ
現代社会は、メンタル疲弊やキャリア不安の問題が増幅し、漠然とした閉塞感に包まれています。
原因はさまざまですが、過重な労働、過剰な競争、個性や可能性を狭める働き方や人間関係が、ストレスや不安を引き起こしている主要因として考えられます。
今後は、そのような閉塞感を解消するために、誰もが自分らしさを活かして、前向きに力を発揮できるような働き方が求められるでしょう。
そのためには、柔軟な働き方やキャリア支援制度を整備し、個々の能力や興味を最大限に活かすことができる環境を提供することが重要です。
このとき、企業の人事部や管理職には「人としての器」をベースとして、ありのままの個人の力を受容し活かしていくようなマネジメントが求められるのではないでしょうか。
そして、私たち一人ひとりも「人としての器」を磨くことで、良い感情(ウェルビーイング)を維持させるとともに他者と親和的な関係性を構築し、独りよがりにならないように個性を発揮していくことが必要になるでしょう。
まとめ
マクロな視点からの5つのトピックを通じて、なぜ現代社会において「人としての器」が重要であるかを考察してきました。
さまざまな課題はありますが、目を背けずに自分ごととして受け止めながら、柔軟な発想や多様な能力を活かし、共生や協力を大切にすることで、より良い未来を築くことができれば望ましいですよね。
このような複雑な時代だからこそ、一緒に「人としての器」を磨き、互いに支え合いながら成長できる社会を目指していければ幸いです。
より詳しく「人としての器」を学びたい方は、金曜の夜は”いれものがたり”にご参加ください。
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