「人としての器」という比喩は、日常的に使われながらも、その意味するところは必ずしも明確ではありません。
そこで、私たちは、「器」という概念を4象限モデルと成長プロセス(ARCTモデル)によって捉えてきました。
具体的には、感情の自制と感性、他者に対する受容と創発的な関わり、自己と社会への統合、そして世界の認知における叡智と達観という観点から、感情制御、レジリエンス、マインドフルネス、共感、視点取得、リーダーシップ、メタ認知、知的謙虚さなどの心理学的変数を整理しています(詳細はこちら)。

器が大きい人は、困難な状況でも動揺せず、多様な価値観を持つ他者と協働でき、複雑な問題にも適切に対処できます。
これらの観点で過去の研究をレビューすると、器の成長がもたらす価値は、大きく3つの領域に整理できます。
- 健やかさ:精神的な安定、身体の健康、人生への満足感
- つながり:信頼できる人間関係、協働的な関係、社会への貢献
- 成果創出:問題解決能力、仕事での成果、創造性や革新性
重要なのは、これら3つの価値が相互に関連しているという点です。
健やかさは他者との良好なつながりを築く基盤となり、つながりは協働を通じた成果を可能にします。
そして、豊かなつながりや意味ある成果の実現は、人生の満足感を高め、健やかさへと還元されます。
器の成長がもたらす価値とは、この好循環を生み出し、維持することと言えるでしょう。
さらに、器の成長がもたらす変化は、これらの価値の「量的な増加」にとどまりません。
器が広がり深まることで、価値そのものが「質的に変容」します。
健やかさは一時的な症状緩和から逆境を通じた成長へ、つながりは良好な関係満足から社会貢献へ、成果は効率的な課題解決から複雑性に対処する知恵へと変化します。
本記事では、3つの価値領域それぞれについて、関連する心理学的変数を整理しながら紹介します。
価値①:健やかさ
健やかさの領域は、困難な経験を受け止める器の性質に関わります。
ここでは、自己調整機能、回復力、そして幸福(ウェルビーイング)の多面的な捉え方に関する変数が挙げられます。
- 「健やかさ」の基盤となる心理的変数
マインドフルネス
マインドフルネスは、現在体験しているものに評価や判断を下すことなく意図的に注意を向けるプロセスであり、感情制御の能力を向上させることで、反芻思考や心配といった不適応な認知プロセスを減少させます(Chambers et al., 2009)。
メタ分析によれば、マインドフルネスの構成要素である「判断しないこと」や「気づきを持って行動すること」は、不安や抑うつと強い負の相関を示しており、精神的健康を保つ因子として機能します(Carpenter et al., 2019)。
セルフ・コンパッション
Neff(2023)によれば、セルフ・コンパッションは自己への優しさ(vs 自己批判)、共通の人間性の認識(vs 孤独感)、そしてマインドフルネス(vs 過剰同一化)という3つの要素から構成されます。
こうした要素により、困難に直面した際に自己批判的な反応を和らげ、否定的な感情に支配されずに困難な経験を受け入れる心理的余裕を生み出すことから、抑うつ、不安、ストレスの低減と強く関連しています(Neff, 2023)。
心理的レジリエンス
心理的レジリエンスは、逆境やトラウマにさらされた後に精神的な健康を維持・回復する動的なプロセスです(Denckla et al., 2020)。
レジリエンスはPTSD(心的外傷後ストレス障害)の予防や治療における重要な要素とされており(Horn et al., 2016)、身体的健康やウェルビーイングを含むメンタルヘルス全般の肯定的な結果をもたらすことが示されています(Ungar & Theron, 2019)。
人生の意味
人生の意味(Meaning in life)、とりわけ「意味の保有」も、健やかさを予測する重要な因子です。
島井ら(2019)の日本人成人を対象とした大規模調査によれば、「人生の意味の保有」は主観的幸福感や人生満足度、セルフ・コンパッションと強い正の相関を示す一方、精神的な苦痛とは負の相関を示すことが明らかになっています。
人生に意味を感じていることは、自己への肯定的な態度と結びつき、人生全体の満足度を高め、ネガティブな精神状態を抑制すると言えます。
- 「健やかさ」の質的変容:症状緩和から、困難を通じた成長へ
健やかさの概念は、単なるストレス軽減や精神病理の緩和、あるいは一時的な快楽の状態にとどまりません。
人生の困難を統合し、器そのものが変容・拡大するプロセスとして、「健やかさ」を再定義する視点も重要です。
マインドフルネスによる逆境の意味構築
上述したマインドフルネスは単なるストレス緩和にとどまらず、逆境的な状況から肯定的な意味を見出すプロセスを促進する可能性も示唆されています。
Garland et al.(2015)が提唱する「マインドフルネスー意味理論」は、マインドフルネスが人生の意味を構築する能動的なプロセスであることを示しています。
このモデルによれば、マインドフルネスは「脱中心化」を通じて、ストレス要因に対する自動的な感情反応から距離を置くことを可能にします。
この広がった自己感覚の中で、個人はネガティブな経験に対して「ポジティブな再評価」を行うことが可能となります。
さらに、この再評価された経験を「味わう(セイバリング)」ことで、快楽的なウェルビーイングだけでなく、逆境の中にこそ目的志向的・成長志向的な意味を見出すプロセスが促進されます。
こうしたプロセスを通じて、マインドフルネスは「逆境を成長の糧へと変換する機能」を果たします。
否定的な感情を抑圧するのではなく、それをより広い文脈の中で捉え直し、人生の目的や自己成長へと結びつける意味構築のプロセスこそが、健やかさの質的変容における中核と言えます。
心的外傷後成長(PTG):ポジティブな性格変容
Jayawickreme & Blackie(2014)やJayawickreme et al. (2021)は、心的外傷後成長(Post-Traumatic Growth: PTG)を、単に過去の状態に戻る「回復」の認識にとどまらず、思考・感情・行動の比較的永続的なパターンの変化を伴う「ポジティブな性格特性の変容」として定義しています。
PTGを通じた変化は単なる苦痛の軽減だけでなく、「他者との関係の改善」「人生における新たな可能性の認識」「個人的な強さの認識の向上」「精神的な成長」「人生への大きな感謝」という5つの領域で現れるとされ、こうした観点での性格特性の変容が持続的な健やかさに寄与します(Jayawickreme et al., 2021)。
心理的豊かさ:困難を統合する柔軟な姿勢
Oishi & Westgate(2021)は、「幸せな人生(快楽と安定)」や「意味のある人生(目的と貢献)」とは異なる第3のウェルビーイングの次元として、「心理的に豊かな人生」を提唱しています。
心理的豊かさは、多様で興味深く、視座の変化を伴う経験によって特徴づけられます。
重要な点は、心理的に豊かな人生を送る人々は、必ずしも快楽的な安定を求めているわけではないということです。
研究によれば、幸福な人生は安定や快適さと関連する一方、心理的に豊かな人生は、ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情も含めた強烈な感情体験や、複雑な経験を受け入れることと関連しています(Oishi et al., 2019)。
困難な経験を避けるのではなく、むしろそれを「視座の変化」をもたらすものとして統合する柔軟な姿勢こそが、知恵の獲得につながり、より充実した健やかさを構成することに寄与します。
価値②:つながり
つながりの領域は、異質な他者を受け入れる器の性質に関わります。
ここでは、自己を超越して他者に関心を向ける姿勢や、社会的相互作用の質を高める変数が挙げられます。
- 「つながり」領域の基盤となる心理的変数
向社会的動機
向社会的動機は、他者の利益のために努力したいという欲求です。
Liao et al.(2022)のメタ分析によれば、この動機は、親和的(向社会的)な行動、本人のウェルビーイング、そして職務パフォーマンスやキャリアの成功のすべてに正の関連があります。
なお、自律的な向社会的動機(楽しさや意味に基づく)は、義務的な動機(しなければいけない)よりも強くウェルビーイング(価値①)やパフォーマンス(価値③)に関連しており、他者への貢献が自身の活力の源泉となることも示唆されます。
コンパッション(思いやり)
コンパッションとは、他者の苦痛に対して単に共鳴するだけでなく、その解決に向けて能動的に関与しようとする向社会的な動機づけを伴うプロセスです(Strauss et al., 2016)。
具体的には、(1)他者の苦しみを認識すること、(2)その苦しみに共通する人間性を理解すること、(3)苦しんでいる人と感情的につながっていることを感じること、(4)他者との間で生じるかもしれない困難な感情にも耐えること、(5)そしてその人を助けるために実際に行動すること、または行動する意欲があること、という5つの要素を含み、これが他者との深いつながりを築く基盤となります。
視点取得
視点取得は、他者の心理状態や視点を認知的に理解しようとするプロセスです。
視点取得を行うことによって、他者への好意を高め、心理的な距離を縮め、偏見やステレオタイプを減少させる効果があります (Ku et al., 2015)。
また、相手の意図や動機、隠れた関心や優先順位を理解することで、協力的な行動を促したり、交渉場面で双方にとって利益のある解決策(Win-Win)を見つけ出したりする助けとなります (Galinsky et al., 2008)。
知的謙虚さ
視点取得を行うには、知的謙虚さを持つことも重要です。
知的謙虚さは、自分の知識の限界を認め、他者の視点や変化の可能性に対して開かれた態度を持つことを指します(Porter et al., 2022)。
知的謙虚さが高い人ほど、自分と異なる意見を持つ他者にも寛容で、他者の幸福を重んじ、気遣う傾向があることが示唆されるため、知的謙虚さは良好な対人関係の維持に役立つと考えられます(Porter et al., 2022)。
- 「つながり」領域の質的変容:関係満足から、自己超越と社会貢献へ
つながりの概念は、身近な他者との良好な関係や互恵的な満足にとどまりません。
「より大きな公共善」にも関与するなど、器そのものを変容・拡大するプロセスとして「つながり」を再定義する視点も重要です。
自己超越感情:小さな自己と社会的結合
Stellar et al.(2017)は、畏敬や感謝などを、個人を自己中心的な関心から解放し、他者との結びつきを強める「自己超越感情」として位置づけています。
中でも畏敬の念は、広大な自然などに直面した際に「自己が小さくなる」感覚を引き起こします。
Bai et al.(2017)の研究では、この「小さな自己」の感覚が、個人の権利意識を低下させ、集団への統合や向社会的な行動を促進し、他者や世界との一体感を高めることが示唆されています。
ただし、畏敬には「脅威に基づく畏敬」と「肯定的な畏敬」があり、脅威に基づく場合は恐怖や無力感を伴い、ウェルビーイング(価値①)を低下させる可能性があるため注意が必要です(Gordon et al., 2017)。
また感謝は、他者から受けた恩恵やポジティブな結果を認識し、それに対応する感情的・行動的反応を含む多面的な構成概念です。
Morgan et al.(2017)の研究では、感謝を概念的理解、感情、態度、行動を含む多成分として測定する尺度が開発され、感謝が良好な人間関係の維持を助けるだけでなく、主観的幸福感とも関連していることが実証されています。
とりわけ、先述のPTGの箇所で述べた「人生への大きな感謝」や、美徳としての(人知を超えた大きなものに対する)感謝の姿勢は、私たち自身の人生や社会全体のより良いあり方(ユーダイモニア)につながっていく、と想定できます。
慈愛と相手とともに繁栄する関係性
Sprecher & Fehr(2005)による「慈愛(コンパッショネート・ラブ)」の研究は、愛やケアの対象が身近な人々から広範囲な他者へと拡張されるプロセスを捉えています。
慈愛は、家族や友人といった「親密な他者」に向けられる場合と、「見知らぬ人や人類全体」に向けられる場合で区別され、親密な他者に対してはソーシャル・サポート(社会的支援)の提供と強く関連する一方、見知らぬ人への愛はボランティア活動などの広範な向社会的行動と強く関連することが示されています。
また宗教性や精神性が高い人ほど、見知らぬ人や人類全体への慈愛が高い傾向にあり、宗教的・精神的な活動に従事するほど、自己の関心が「内集団」を超えて普遍的な他者へと拡張される可能性があることが示唆されます。
また、組織の文脈では、リーダーが「慈愛」を基盤として持つことが、サーバント・リーダーシップの核心であるという指摘があります(Van Dierendonck & Patterson, 2015)。
慈愛を通じてリーダーの中に「謙虚さ」「感謝」「許し」「利他主義」といった徳性が育まれ、より人間的な関わりを持つような職場環境を作ることで、長期的な組織の有効性を高めることに寄与します。
具体的な他者へのサポートの提供に関しては、Feeney & Collins(2015)が提示する人間関係を通じた繁栄モデルが参考になります。
良質な社会的支援においては、逆境における資源の提供だけでなく、逆境のない状況における成長、探求、目標達成を促進する機能も必要です。
困難な状況を乗り越えるための「SOS(Source of Strength)サポート」と、日常の成長の機会を積極的に追求するための「RC(Relational Catalyst)サポート」という2つのサポート機能を使い分けることによって、親密で思いやりのある関係性の先にある「繁栄」(成長や発展を含む概念)を促すことができます。
価値③:成果創出
成果創出の領域は、多様な経験・出来事を価値ある行動・結果へと変換して表出する器の性質に関わります。
ここでは、複雑な課題に対処する認知能力、持続的な努力、他者の力を引き出す関わりに関連する変数が挙げられます。
- 「成果創出」領域の基盤となる心理的変数
成長マインドセット
能力や知能は固定されたものではなく、努力や経験によって伸長可能であるという信念(成長マインドセット)は、困難に直面した際の適応的な行動パターンを予測する重要な因子です。
Yeager & Dweck(2020)によれば、成長マインドセットは学習目標の追求を促し、失敗を能力不足の証拠ではなく学習の機会と捉える態度を促進します。
成長マインドセットは学習意欲を高め、長期的な学業成績の向上や困難な課題への挑戦を支える基盤となります。
メタ認知とシステム思考
複雑な問題を解決するためには、要素間の相互依存関係を理解する思考力と自身の認知プロセスを客観視する力が必要です。
システム思考は、物事を孤立した要素としてではなく、相互に関連し合う全体システムの一部として理解するアプローチです。
DSRP理論によれば、システム思考は「区別(境界の認識)」「システム(部分と全体の認識)」「関係性(作用と反作用)」「視点(点と観点)」という4つの組み合わせによって、複雑な現実世界の構造をより深く構築・理解することを可能にします(Cabrera et al., 2021)。
Carlucci et al.(2010)の研究では、リーダーの認知的コンピテンシーとしてのシステム思考が、組織のパフォーマンスや有効性を高めることが実証されています。
また、システム思考を促進するうえでは、自身の思考や学習プロセスを監視し、制御する機能を指すメタ認知も重要になります。
Fleur et al.(2021)のレビューによれば、メタ認知を通じた内省の促進は、学業成績の向上に有効であることが示されています。
他者の力を引き出すリーダーシップ
成果創出には自身の能力発揮だけではなく、周囲のメンバーの自律性や多様性を統合し、集団としての成果を最大化するリーダーシップの視点も重要です。
Korkmaz et al.(2022)のレビューによれば、インクルーシブ・リーダーシップは、メンバーの「帰属感」と「独自性」を同時に満たすことで、部下の心理的安全や内発的動機づけを高め、創造性や市民行動などのポジティブな結果をもたらすとされます。
またリーダーが感謝や承認の姿勢を積極的に示すことで、部下がパフォーマンスで報いるようになるという互恵的な関係性を整える視点も重要です。
加えて、Cheong et al. (2019) によれば、エンパワリング・リーダーシップを通じて、自己効力感や心理的エンパワーメントを高めることで創造性やパフォーマンスに寄与することが示されています。
ただし、エンパワリング・リーダーシップでは部下に過度な緊張や負担を強いる側面も併せ持つことから、部下の能力や性格、文化、タスクの状況といった様々な条件を考慮しながら、どのように関わるかを慎重に検討する姿勢が必要です。
- 「成果創出」領域の質的変容:問題解決から、複雑性に対処する知恵へ
成果創出の概念は、知識やテクニックを活用した問題解決にとどまりません。
正解のない複雑な問題に対して、道徳的かつ統合的に判断を下す「知恵」の発揮という観点から、器そのものを変容・拡大するプロセスとして「成果創出」を再定義する視点も重要です。
知恵と共通善の志向
知恵は単なる知識の集積とは区別され、Grossmann et al.(2020)は知恵を「道徳的な基盤」と「卓越した社会的認知処理」の統合として定義しています。
具体的には、自己と他者の利益のバランスを取り「共通善」を志向することに加えて、知的謙虚さやメタ認知的な推論を組み合わさることで、不確実で複雑な社会問題に対して賢明な判断が下されます。
関連して、Glück & Weststrate (2022)が提唱する統合的知恵モデルによれば、賢明な判断を下す個人は知恵の非認知的要素(探索的志向、他者への配慮〈共通善〉、感情制御)に関係する心の状態を持っており、それによって困難な状況においても知恵の認知的要素(知識、メタ認知、自己内省)を十分に活かせるようになると指摘されます。
フロネーシス(実践的智慧)
Kristjánsson et al.(2021)は、アリストテレス由来の「フロネーシス(実践的智慧)」を、現代心理学において再評価しています。
フロネーシスは、個々の美徳(勇気や正義など)が状況に応じて過剰になったり不足したりしないように調整し、競合する価値観を統合して、具体的な状況下で「何が善い行いか」を判断し実行に移すメタ的な徳性として機能します。
またDarnell et al.(2022)によれば、フロネーシスは「構成的機能(道徳的な状況の認識)」「統合的機能(葛藤する価値の調整)」「道徳的感情」「アイデンティティ」といった複数の要素から成る高次な概念であり、これによって向社会的行動に結び付くことを明らかになっています。
なお、理論的には向社会的行動にとどまらず、自己と他者の幸福を統合した「繁栄(flourishing/eudaimonia)」の実現がフロネーシスの究極的なアウトカムとして想定されます。
世界に対する視座の高まり(階層的複雑性モデル)
そのような「繁栄」としてのアウトカムを想定する際には、世界に対する高い視座を持ち合わせた複雑なものの見方が必要になります。
Commons & Jiang (2014)の階層的複雑性モデル(Model of Hierarchical Complexity)では、タスクの複雑性に着目して認知発達を数学的に記述しています。
このモデルによれば、タスクの難易度は情報の量ではなく、情報がどのように組織化されているかによって決まり、より高い認知発達段階では、互いに矛盾したり独立していたりする複数のシステムや視点を調整・統合する思考が求められます(Commons & Jiang, 2014; Commons & Kjorlien, 2016)。
発達が進むにつれて、単に既存のルールに従って問題を解決する段階から、新しいパラダイムを構築し、異なる分野を統合する段階へと成果の質が移行するため、目の前の課題解決から、より広範なシステム全体の変革へと視座が高まることを理論的に裏付けています。
まとめ:器の成長がもたらす価値の全体像
本記事では、「人としての器」の成長がもたらす3つの価値(健やかさ、つながり、成果創出)について、関連する心理学的変数を整理しながら、器の成長に伴う価値の質的変容ついても検討しました。
以下の表は、各領域における変容を要約したものです。
| 価値の領域 | 器の量的な広がり | 基盤となる心理的変数 | 器の質的な変容 | 質的変容に関連する概念 |
|---|---|---|---|---|
| 健やかさ | 症状の緩和、一時的な快楽、ストレス軽減 | セルフ・コンパッション、心理的レジリエンス、人生の意味 | 逆境を通じた成長、視座の変化を伴う経験の統合 | マインドフルネス─意味理論、心的外傷後成長、心理的豊かさ |
| つながり | 良好な関係満足、互恵的な支援 | 向社会的動機、コンパッション、視点取得、知的謙虚さ | 自己超越、人類全体への慈愛、他者の成長支援 | 自己超越感情(畏敬・感謝)、慈愛、繁栄モデル |
| 成果創出 | 知識の活用、効率的な課題解決 | 成長マインドセット、メタ認知とシステム思考、リーダーシップ | 共通善を志向する知恵、複雑性への統合的対処 | 知恵、フロネーシス(実践的智慧)、階層的複雑性モデル |
重要なのは、これら3つの価値が独立して発達するのではなく、相互に関連しているという点です。
健やかさは、他者への関心を向ける余裕を生み出し、つながりの基盤となります。
つながり(特に視点取得や知的謙虚さ)は、多様な視点を統合する知恵の発達を支え、成果の質を高めます。
そして、他者との豊かなつながりや意味ある成果の実現は、人生の目的感や満足感を高め、健やかさへと還元されます。
心身の健康、深い人間関係、意味ある成果が創出されるという相互循環は、器の成長を通じて、さらに質的なレベルを高めて、持続可能な形に変わっていきます。
器の成長は生涯を通じたプロセスです。
3つの価値をより一層高めるために、自分らしい器磨きの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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