2023年11月24日、一般社団法人Integral Vision & Practice 代表理事の鈴木規夫さんをゲストにお招きした特別イベント「いれものがたり×鈴木規夫」を開催しました(開催概要はこちら)。
近年の組織開発、個人の発達研究の分野に大きな旋風を巻き起こし、ティール組織の理論的な背景にもなった「インテグラル理論」を日本に紹介した鈴木規夫さん。
当日は、鈴木さんがご自身の器をどのように形成していったのかというエピソードを掘り下げてお伺いました。
どのエピソードも大変面白く、私たちにとって器を磨き大きくしていくうえでの重要な示唆をいただきました。
印象的な内容をまとめましたので、当日の雰囲気を感じていただければ幸いです。
幼少期のスポーツ経験から得たもの
鈴木さんは幼少期から体操競技に励んでおり、この経験が人格形成に大きな影響を与えたと言います。
新しい技を習得するための練習を通じて、ある日突然、その技ができるようになったことに興味を抱いたというエピソードをお話いただきました。
新しい技ができるようになったとき、まるで意識の中でライトが点灯するような突然のブレイクスルーがありました。人格形成の基盤となる幼少期に、そうした不思議な瞬間を頻繁に経験できたことは大きかったように思います。また、昭和の時代のスポーツコーチは科学的なバックグラウンドがなく、子供たちがコーチの言葉を自分なりに解釈しなければならなかったため、ブレイクスルーが起きにくい状況にありました。そうした中で「もう少し上手く伝えてくれればいいのに」という先生との葛藤を通じて、私は言葉にこだわるようになり、より豊かな言葉を持って学びにつながる支援を提供したいという想いも芽生えました。
至高体験による垂直軸の自己肯定
中学・高校時代には、学校の勉強やカリキュラムに違和感を覚え、どこか一匹狼だったと鈴木さんは振り返ります。
例えば、英語のテストで100点を取っても実際に英語を使えるわけではないという問題意識があり、学校で教えられる勉強は受験勉強というゲームを勝ち抜くためのもので、本当の勉強ではないと感じていたと言います。
そうした与えられたゲーム自体に疑問を抱き、学校システムに馴染めなくなったことが、海外留学へとつながりました。
高校2年生の時にアメリカへ短期留学した際、これまでのもやもやとしていた感情が晴れて、エネルギーが溢れ出るような経験をしました。それはマズローの言う至高体験に似ていたと思います。その経験を通じて、日本社会に不適応で居場所のなかった自分でも、この世の中で生きていても良いのだと実感できました。
至高体験では、水平軸ではなく垂直軸での自己肯定が起きたのだと思います。第三者からの歓迎や承認は水平軸による自己肯定ですが、至高体験では自分を超えた上の次元との繋がりの中で自己肯定が起こりました。私は水平軸で友人や先生とつながることは苦手でしたが、垂直軸を通じて救われたという経験はとても貴重でした。
音楽を聴くことで磨かれた感性
そうした至高体験を得られたのは、子どものころから音楽を聴く機会に恵まれたことが一因ではないかと鈴木さんは話されました。
物心つく頃に、映画『スター・ウォーズ』のジョン・ウィリアムズの音楽を聴き、クラシック音楽への興味を持ちました。深く音楽を聴くことを通じて垂直軸に対する感性が開かれたように思います。例えば、シベリウスの作品などを聴いていると、作曲家の精神と完全一致するかのように、すべての音符の意味が分かるという瞬間があるのです。そのように音楽を聴いてきた経験は、後に対人支援の場面で相手の話を聴く際にも役立ち、言葉では表現されていない、その人の存在全体としてその人たらしめる尊いものを聴くという姿勢につながりました。普段は水平軸の生産的な活動を通して生活を充実させがちですが、志を持った作曲家や演奏家の音楽を通して垂直軸に触れられるという経験は、今でも私にとって生きるうえでの救いの一つになっているため音楽を聴く時間を大切にしています。
現代社会のリーダーの在り方
最後に、鈴木さんから現代社会のリーダーが直面している課題についてお話いただきました。
優れた教師というのは、教室を身体化して自分の体の一部として認識できる人であると聞いたことがあり、これはリーダーシップにも通じていると思います。地位が高く影響力を持つリーダーであっても、首から上の頭や口で発しているメッセージと首から下の心や体で発しているメッセージがバラバラになっていて、組織内で混乱を引き起こす事象をよく見かけます。また現代社会では、SNSの発達やCOVID-19を契機として、知らず知らずのうちに思考の自由が奪われている言論統制が進んでいるのではないかとも感じます。だからこそ、今の時代のリーダーは、そうした社会を硬直化させたり閉塞状態にさせたりする空気に対してどのように働きかけるか、首から上と下を分離させずに社会課題に対する責任を負っていくことが求められるのではないでしょうか。言い換えれば、選択肢が用意されているようで実はすべて与えられたものかもしれない状況で、リーダーと呼ばれる人たちは現状のゲームの中で自分たちだけが勝ち上がるのではなくて、そもそものゲーム自体に揺らぎを起こすような根本的な問いかけや問題提起をすることで、ゲーム自体を変えていくような役割が求められるのではないかと考えています。
当日の参加者からの感想
- 現在の社会の状況、またリーダーシップ等に関して考えさせられ、学びが多くありました。
- 人の成熟や発達の窓から人間を見ること自体がひとつの観点に過ぎないということをいつも思い出させてくれる鈴木さんのお話が聞けてうれしかったです。
- 規夫さんとは長くお付き合いをさせていただいていますが、こうやって俯瞰した形でご自身のことを伺うことができたのは貴重な機会でした。
- その人の中の美しい調べに耳を傾ける、という規夫さんのありように、私もこれまで、そして今も、どれだけ励まされているかを改めて振り返る機会となりました。
- 成長に際し人は必ず痛みを通過しなければなりませんが、その痛みに耐え抜くことの苦しさと尊さを知っている規夫さんだからこそのお言葉がありました。素敵な時間をありがとうございました。
まとめ
上記のほかにも、魅力的なエピソードをたくさん語っていただきました。
私は、鈴木さんのお話を聞きながら、目の前で見えているものにとらわれがちな自分自身をメタ認知し続けていくことの重要性に気づかされました。
また鈴木さんの器の物語には、鈴木さんならでは個性や独自の器の形があり、鈴木さんの過去から現在のお取り組み、今後の問題意識まで地続きでつながっていることを知ることができて、嬉しく思いました。
「人としての器」の研究と鈴木さんのお取組みとの重なりも感じられ、これからもご一緒に活動ができそうな期待を持てた機会となりました。
みなさんも、ぜひ鈴木さんの器のエピソードをきっかけに、ご自身の「人としての器」の在り方について思いを巡らしていただければ嬉しく思います。
※本イベントのアーカイブは、「人としての器」のクローズドコミュニティ内で共有しています。通常の金曜の夜は”いれものがたり”への参加者限定でコミュニティにご招待いたしますので、アーカイブ視聴をご希望の場合、まずは”いれものがたり”にご参加くださいますと幸いです。