今回は「人としての器」に関する四象限—「自我統合」「世界の認知」「感情」「他者への態度」—の影響プロセス仮説に関して述べていきます。
図に示しているとおり、様々な「出来事・経験」がインプットとなり、自身のあり方(人としての器)を通じて、アウトプットとしての「行動・実践」に結びつくと考えられます。
言い換えれば、(自覚的にせよ無自覚にせよ)器を使用するうえでの最初のきっかけは「出来事・経験」であり、器の成長プロセスを示したARCTモデルにおいても、まずは「経験の蓄積」から始まります。
● 「自我統合」のプロセス
出来事・経験は「自我統合」を媒介して認知を形成します。
「自我統合」は自我の状態であり、自分自身と共同体のすべてを受け入れ、人生に意味を見出し、主体的な姿勢で生きていくことと定義されます。
「自我統合」は、経験を通じて蓄積・獲得されるもので比較的安定したものです。
そして、社会性と結びついた強い信念を持つなど自我統合が深まることで、広い視野・高い視座といった「世界の認知」を発揮できるようになります。
● 「世界の認知」のプロセス
「世界の認知」は、自身が存在する世界に対する理解と認識、そしてそれに基づいた思考や判断を表す領域です。
先ほど述べたとおり、自我統合の状態が「世界の認知」を規定します。
そして、対象をどのように認知するかによって「感情」は変わってきます。
例えば、非常に困難な状況に直面したとき、「自分はなんて不幸なんだ」と考えるか、「これは成長するチャンスだ」と考えるかによって、感情や身体反応は異なります。
つまり、対象の価値を捉える「世界の認知」の状態によって、感情が規定されていくと言えます。
●「感情」のプロセス
「感情」とは、私たちが経験する喜び、怒り、悲しみ、恐れなどの心の状態、つまり私たちの気持ちや情動を捉えたものです。
「感情」は、外からの刺激に対して自分自身の中で発生する身体的な反応と捉えることもできます。
先述のとおり、対象の価値をどのように捉えるかという認知によって「感情」は決まります。
また、「感情」の状態によって、他者への態度も変わってきます。
例えば、心に余裕があるときには、他者に優しくできるけれど、忙しくて余裕がなくなると、つい他者に不寛容になってしまうことは誰しもがあるのではないでしょうか。
●「他者への態度」のプロセス
「他者への態度」は他の人々や社会的な出来事に対する個人の反応やふるまいを表し、「行動・実践」の準備段階と言えます。
先述のとおり、感情の状態が「他者への態度」を決めます。
そして、「他者への態度」によって、個人の行動や実践が表れます。
そのため、器の四領域の中でも、他者への態度は最も外から見えやすいものになります。
他者に対する思いやり、成長に向けた導き、愛情や謙虚さを通じて相手を包み込むような態度を持っていれば、それに伴った言動が表れていくと言えるでしょう。
●「統制・開発」のフィードバックプロセス
図では「規定」という言葉が各要素間に示されており、通常のプロセスは左から右の順で進むことが想定されます。
例えば、「自我統合」がしっかり行われていないと、「世界の認知」や「感情」にも偏りが生じ、それが「他者への態度」にも影響を与えます。
しかし、それぞれの要素には循環的な因果関係があり、右の要素から左の要素を「統制・開発」するフィードバックプロセスも考えられます。
例えば、「感情」をコントロールしたり、「感情」の豊かさを開発するには、「他者への態度」に意識を向けることが重要になります。
包み込むような態度で相手と接することで、自然と感情面で心の余裕も持てるようになります。
同様に「世界の認知」を広げるには、「感情」に目を向けることが重要です。
余裕のある感情状態に整えることができれば、自然と認知も広がっていきます。
そして、「自我統合」を深めるためには、「世界の認知」に目を向けることが必要です。
広い視野・高い視座で、物事を深く捉えられてこそ、真の意味で自我統合を進めることができます。
このように「統制・開発」するフィードバックプロセスが想定されますが、このプロセスは一朝一夕には進むものではなく、時間をかけて訓練して蓄積することが求められる点に注意が必要です。
●まとめ
「人としての器」の四象限—「自我統合」「世界の認知」「感情」「他者への態度」—は、それぞれが独立しているようでありながら、実は密接に関わり合い、個人の行動・実践に影響を与えています。
この影響プロセスを理解することで、自分自身の器をどのように成長させるかを考える指針となるでしょう。
今回の考察をもとに、自身の経験や感情、他者との関わり方を見直して、「器」を磨き大きくするための一助にしていただければ幸いです。