「人としての器」が成長するきっかけ

総論

これまでの記事では「人としての器」という概念について、その構成要素を検討してきました。

今回は、「人としての器」が成長するきっかけについてご紹介したいと思います。

こちらも、社会人を対象としたアンケート調査の中で「人としての器」が成長するきっかけを尋ねて分類しました。

その結果、「環境変化に影響を受け、意識が変化」「他者からの影響によって自分の意識が変化」「内省し自分に対する意識が変化」「自分自身の行動が変化」「他者への働きかけや行動が変化」「環境変化に対して行動した(乗り越えた)」という六つのカテゴリに整理することができました。

順に見ていこうと思います。


器が成長する6つのきっかけ

①環境変化に影響を受け、意識が変化

ここでは「自分の身の回りで理不尽なことが起こったとき」「病気・けがをしたとき」「責任が増えたとき」「職位が上がったとき」「大切なものとの離別」というきっかけが挙げられます。

より具体的な意見として、「周囲からの拒絶(いじめ)の経験」「大病をして、自分が生かされていると気づいた時に、これまでと世の中の見え方が変わり成長した」「会社の成長により自己の責任範囲、影響範囲が広くなることがきっかけで、以前よりも広い視点を持たざるを得なくなった」などがありました。


②他者からの影響によって自分の意識が変化

ここでは「いやな人との出会い・反面教師」「他者から感謝されたとき・頼られたとき」「他者・尊敬する人からアドバイスをもらったとき」「他者から許されたとき」「異なる価値観の人と出会ったとき」「ロールモデルと出会ったとき」「他者の困りごと、頑張りを目の当たりにしたとき」というきっかけが挙げられます。

より具体的な意見として、「器の大きな人に接したときに自分もそうありたいと思った」「自分のものさしで測ることは視野が狭いことだと他人の振る舞いを見て気づいた」などがありました。


③内省し自分に対する意識が変化

ここでは「内省したとき」「自己受容したとき」「死生観・人生観を考えたとき」「価値観が変わったとき」「自分の小ささを感じたとき」というきっかけが挙げられます。

より具体的な意見として、「認めたくない性質が自分の中にもあることを直視し、それも受け入れ、生かす方向で考え始めた」「飾らない自分自身とつながった」などがありました。


④自分自身の行動が変化

ここでは「習慣を変えたとき」「学びを実践したとき」「挑戦したとき」というきっかけが挙げられます。

より具体的な意見として、「様々な仕事をこなすだけでなく自ら考え行動したことにより成功できたこと」「勇気を出して知らない世界、人の中に飛び込んでいくこと」などがありました。


⑤他者への働きかけや行動が変化

ここでは「他者を傷つけてしまったとき」「他者受容したとき、他者を許せたとき」「他者への感謝・理解が芽生えたとき」「他者からの評価に執着しなくなったとき」というきっかけが挙げられます。

より具体的な意見として、「自分の器の小ささで人間関係を壊しているのではないかと感じた」「人のやることを気にしなくていいと気づいた」などがありました。


⑥環境変化に対して行動した(乗り越えた)

ここでは「つらい経験や失敗を乗り越えたとき」「挫折を乗り越えて成功したとき」「子育て・介護を経験したとき」「多様な経験をしたとき」というきっかけが挙げられます。

より具体的な意見として、「自分が親になったとき。子どもは親の思い通りには行動しないので、子どもの成長を通じて、親としての自分も成長したと感じる」「配偶者のうつ病介護」などがありました。


まとめ

6つのカテゴリは「意識・内面に関係するきっかけ」「行動・外面に関係するきっかけ」に分けることができ、また成長させるきっかけの源泉として「自分自身」「他者との関係」「環境変化」という切り口によって分類できます。

このように、私たちが「人としての器」が成長するきっかけは、日常のあらゆる経験の中に潜んでいることがわかります。

理不尽なつらい経験もきっかけになり得ますし、責任のある立場についたことや、尊敬する相手と接したこともきっかけになります。

一方、同じような体験をしても、個人によって受け止め方や内省の度合いが異なれば、器の成長につながらない場合も想定されます。

6つのカテゴリは相互に関連しあっているとも考えられ、意識・内面に関わる自己認識の力を高めるとともに、行動・外面の観点で新しい自分への挑戦を試みたり、他者や環境への働きかけを変えてみることも重要となるでしょう。

つらいことや、大変な状況の最中にいれば、そこから逃れたくなる気持ちが芽生えるかもしれません。

そして、そうした経験こそが成長だったと、後になって知ることになるかもしれません。

ただ一つ言えるのは、これまで経験したことも、これから経験することも、すべてあなたの器を大きく成長させてくれる大切なきっかけです。

上述した6つのカテゴリを参考に、一つひとつの経験を噛みしめながら、自分らしい器づくりに活かしていただければ幸いです。


より詳しく「人としての器」を学びたい方は、金曜の夜は”いれものがたり”にご参加ください。

これまでの研究成果のエッセンスを紹介し、対話形式で理解を深める入門版ワークショップです。


「人としての器」の成長要因に関するアンケート調査の分析プロセスは、下記の学会発表原稿をご参照ください。

高橋香・羽生琢哉・前野隆司 (2022)「「人としての器」の成長要因に関する検討」『人材育成学会第20回年次大会発表論文』

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