2021年から慶應義塾大学大学院で始まった「人としての器」の研究は、継続的な学会発表を進めるとともに、”いれものがたり”という実践的な試みを通じて、たくさんの方と関わることになりました。
研究当事者である私たちも「人としての器」というテーマの奥深さに引き込まれ、まだまだ探求のしがいを感じており、また、器という考えがこれからの世の中においても一層重要になるという確信を持っています。
”いれものがたり”の取り組みが一巡し、「人としての器」の展開が次のフェーズに差し掛かろうというタイミングで、今回の法人(株式会社人としての器)の設立に至りました。
私たちのミッションは、『人としての器を磨き、個性と可能性を拓き続けることで、深く通じ合える社会へ』であり、ここには3つの意味が込められています。
1.人としての器を磨く
現代社会では、目に見える成果やスキル・テクニックが評価されがちで、これが様々な歪みを生じさせています。
そこでは、わかりやすい基準として序列がつくられ、格差が生み出されます。
基準に達して成果を得た人たちは、知らず知らずのうちに傲慢になり、自分たちに都合の良い社会のルールや価値観を強要してしまっているかもしれません。
そのルールの中で勝ち残るための必死な競争を強いられ、その結果、基準に達しない人たちは虐げられて、どこにも居場所なく生きていくことになるかもしれません。
人間関係の衝突、メンタル不全、将来の不安、理不尽な言動、優秀社員の離職――こうした課題は、一見、バラバラに見えますが、その根底では、いかに不確実で多様な価値観や考えを受け入れられるかどうかという「人としての器」が関わっています。
「人としての器」は可視化できるスキルを超えた人間性や成熟さを表現する包括的な概念で、豊かな感情、深い対人関係、広い視野、自己受容、利他性などが含まれます。
この概念は一見曖昧で抽象的に見えるかもしれませんが、その曖昧さこそが多様な解釈を受け入れる余白となっているのです。
現代社会で顕在化している様々な課題に対して、対症療法ではなく根本から向き合うためには、「器」という一見わかりづらいものを見ようとする姿勢が、今後より一層に大切になると考えます。
2.個性と可能性を拓き続ける
現代は、個性や多様性の時代と言われます。
今まで理不尽に抑圧されてきた立場の方が声をあげられるようになり、多様な属性や価値観を持つ人が、平等に社会で活躍できるようになるのは素晴らしいことだと思います。
しかし、自身の個性の認識が未成熟なまま、自分の立場を守ったり保護を受けたりするための免罪符や正当化の道具として、その個性を利用している側面もあるのではないでしょうか。
重要なのは、自らの個性を十分に受け入れながらも、可能性を拓き続ける努力・挑戦ではないかと考えます。
「拓」という字には、新たな領域に主体的に挑戦するという意思が込められています。
そして、個性や可能性は一度、拓くことができたら終わりというものではなく、継続的に拓き続けるプロセスが大切になります。
「人としての器」には、あるべき姿という完成形はありません。
それぞれのやり方で、自分らしい素敵な器をつくり続けることが重要で、そのプロセスは終わりがなく果てしないものです。
何歳になっても新しい器を作り続け、人生の終わりを迎えたときに「これが自分の最高傑作だ」と納得できることを目指し、そうした自分らしい器の形跡を後世にも残すことができたのなら、これほど幸せなことはないと思いませんか。
3.深く通じ合える社会
最近の若者の間では、職場とプライベートの人間関係を完全に切り分けて、職場においてはプライベートに干渉しない表面的な会話を好む傾向があるようです。
上司や先輩は、ハラスメントという指摘への警戒から若手社員への適切な距離感を見失い、積極的な指導や声がけが難しくなっているとも聞きます。
上記の理由により、現代社会で深く通じ合える関係性を築くことは、一層難しくハードルの高いものになっています。
しかし、本来の自分を素直にさらけ出し、良い部分も悪い部分もすべてを受け入れてもらえる関係性を築けることは、人生における最高の喜びの一つだと思います。
表面的な人間関係を求める背後には、受け入れてもらえないことへの恐れや失望があり、これはどこか受け入れてもらいたいという願望の裏返しなのではないでしょうか。
社会において豊かなつながりをみんなが持つことができたのなら、世の中の痛ましい出来事も悲惨な事件も未然に防げるかもしれません。
現在の職場ではすぐに難しいかもしれませんが、少し離れたところになら、深く通じ合える居場所をつくることができます。
そこではこれまでに経験したことのない喜びや感動が存在し、そこでの対話を通じて、変わらないと諦めかけていた現実も、少しずつ動き出していくかもしれません。
私たち「人としての器」では、皆さまと一緒に、そのような居場所をつくっていけたらと思います。
あなたにしかできない、自分らしい器をつくりましょう。
ここでの活動が、普段当たり前に使っている器のように、あなたの生活に寄り添う一部になることを願っています。
2024年4月
株式会社人としての器
代表取締役 羽生琢哉