「人としての器」の関連書籍

総論

これまで「器」という言葉は、多様な意味合いで用いられてきました。

今回は、人としての器に関連した一般書籍として、以下の7つをピックアップして紹介します。

  1. 福田和也『人間の器量』新潮社、2009年
  2. 斎藤一人・柴村恵美子『器』サンマーク出版、2012年
  3. 加藤洋平『なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』日本能率協会マネジメントセンター、2016年
  4. 小林弘幸『すべての悩みが小さなことに思える生き方』マキノ出版、2020年
  5. 丹羽宇一郎『人間の器』幻冬舎、2021年
  6. エマ・ヘップバーン『心の容量が増えるメンタルの取扱説明書』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年
  7. オットー・ラスキー『「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法』 日本能率協会マネジメントセンター、2024年

1.福田和也『人間の器量』新潮社、2009年

「戦後、日本人は勉強のできる人、平和を愛する人は育てようとしてきたが、人格を陶冶し、心魂を鍛える事を怠ってきた。なぜ日本人はかくも小粒になったのか」――著者は本書の中で、日本人の器が小さくなった本質的な理由について迫っています。

同書では、器という漢字の語源に触れながら、次のように述べています。

”器という字には本来、神霊に繋がる要素があったという事がわかります。日常的に用いるものではない、弔いという、人間の心魂が天へと帰る、無二の機会にのみ使われるものが器だった。そう考えれば、私たちが人の「器」を語り、時に測るという事もまた、現世、人知を超えた事物と触れるという事であるかもしれません。器について想いをめぐらすという事には、それだけの敬虔さが必要なのです。”

器というものが測りがたいスケールで捉えられており、深遠な意味を持っていることを理解できる一冊です。

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2.斎藤一人・柴村恵美子『器』サンマーク出版、2012年

本書では、器をテーマにして、「器とは何なのか?」「どうやって大きくすればいいのか?」を掘り下げています。

以下の記述から、同書における器という概念には利己的な損得ではなく利他的な考え方や行動が含まれ、また感情の安定や視野の広がりについても包含して捉えられていると読み取れます。

“我を外した、人間的な正しい考え方を“器”って言うんじゃないか”
“器が大きい人というのは、選択の幅が広くてできることが多いだけではなく、「考え方」も大きな人です。物事をより大きな視点でとらえるので、その人に起こった出来事は他の人と同じでも、とらえる側面が違ってくるので、おのずと出てくる結果も違ってきます“
“(器が大きい人は、)小さなことでくよくよしたり、悩んだりすることもありません”

また、誰でも“器”を大きくできるという考えの下で、「器」を大きくするための実践的な方法を提供しており、参考になる一冊です。

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3.加藤洋平『なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』日本能率協会マネジメントセンター、2016年

本書の中では、人間の成長を「器の成長」と「能力(スキル)の成長」に分け、ロバート・キーガンらが提唱した成人発達理論の考えは「器の成長」に着目したものであると紹介しています。

本書を通じて、器とは、単純な経歴や業績、役割を果たすための資格や能力を指すのではなく、多様な他者や曖昧な環境を包み込むような人としての大きさや心の広さや感情の安定を意味していると読み取れます。

“意識が成熟していき、自分の器が拡大していくと、多様な他者を受け入れられることだけにとどまりません”
“他者のみならず、置かれている環境なども含めて、私たちを取り巻く曖昧なものをより受容することができるようになる”
“人としての器が拡大すれば、自分の感情に過度にとらわれることがなくなってくるんじゃないか”

私たち「人としての器」研究チームは、加藤洋平氏の一連の著作をきっかけに研究を始めたこともあり、同書は必読の一冊です。


4.小林弘幸『すべての悩みが小さなことに思える生き方』マキノ出版、2020年

本書では、多くの悩みは心の器と密接につながっていると指摘し、自身の心の器を知る方法、悩みを小さくする考え方や行動について、実例を交えて紹介しています。

以下のとおり、同書では感情面の許容量に着目しながら、器を捉えていると読み取れます。

“心の器とは、それまでの経験や環境などから形成される「自分の許容範囲」のことです”
“器(許容範囲)の大きさによって、物事や人の言動に対する受け止め方、捉え方、ストレスの感じ方が違う”

また、「器は他人ではなく自分で評価することが重要」「心の器は小さくたっていい、自分の器に気づくことが重要」と述べられており、医師としての現場経験も豊富な著者が語る具体例は実用的で、多く示唆を得られる一冊です。


5.丹羽宇一郎『人間の器』幻冬舎、2021年

元伊藤忠商事社長である著者が、人間の器について自身の体験談を交えながら語っています。

同書では、器が大きい人の特徴に触れながら、以下のように述べています。

“いざとなれば自分を犠牲にしてでも他人を救おうという気概の持ち主”
“人の器を測る尺度があるとしたら、損得の計算を超えたところで行動できるかどうかにある”

「自分にしかできないことをやる」「何が起きても〈それがベスト〉と考える」「ときに積極的に諦める」など、器を大きくするための心のありようや生き方について述べられており、自我統合の観点での器の理解を深められる一冊です。

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6.エマ・ヘップバーン『心の容量が増えるメンタルの取扱説明書』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年

本書は、器という言葉を直接的に用いているわけではありませんが、心の許容量を増やし、心が健康になるための様々な実践方法を提供しています。

“私たちはみんな心のジャム瓶を持っていて、その中にはストレスに対する弱さ(イチゴ)と、ストレスの原因(ラズベリー)が詰まっています。ストレスに対して弱ければ弱いほどイチゴの量は増え、ストレスの原因が多いとラズベリーの量が増えます。その弱さは人によって異なり、ストレスの原因はその時々で変わります。”
”人によって限界はおのずと決まっているので、ストレスの原因がジャム瓶の容量を超えると、心の健康に支障が出ます。しかしまわりの人に助けてもらう、良質な睡眠をとる、運動するなどの適切なストレス対処法を学んで実践することで、ジャム瓶の容量、つまり心の容量は増やすことができます。”

感情のキャパシティを可視化するエクササイズのほか、メンタルの悪化のサインに気づき対処する重要性を述べており、主に感情面の器について理解を深めることのできる一冊です。


7.オットー・ラスキー『「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法』 日本能率協会マネジメントセンター、2024年

本書は、2024年2月出版の新刊で、帯には「これまで示されていなかった発達段階を見極める手法を説いた希少な手引書」と記載されています。

監訳者の中土井僚氏は、「まえがき」の中で、安易に器を測定することの危険性や限界に言及し、以下のように述べています。

”(器の)「物差し」が学術研究に裏付けられているように見えれば見えるほど、人の器に優劣をつける行為を絶対的なものに仕立て上げてしまい、結果的に自分自身の可能性を限界づけたり、他者を傷つける道具として使われてしまったりして、社会全体に脆弱性をもたらす危険性も十分あります。”
“本書の内容を通して、皆さま自身の「器」を巡る旅路と、他者の「器」に対する支援がより適切に、倫理観をもって果たされるきっかけとなることを心より願っています。”


器というものは奥深い概念で、まだまだ研究途上であり、もしかしたら、その実態は永遠に明らかにできないものと言えるかもしれません。

だからこそ、わかった気にならずに、一歩ずつ着実に実在に近づいていくプロセスを大切にすることが重要ではないかと考えます。

上記の書籍を通じて、「人としての器」に対する理解や関心を深めるとともに、その深遠なる探求の道を一緒に歩んでいただければ嬉しく思います。



より詳しく「人としての器」を学びたい方は、金曜の夜は”いれものがたり”にご参加ください。

これまでの研究成果のエッセンスを紹介し、対話形式で理解を深める入門版ワークショップです。

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